TDOトップデザイナー対談

ヘーベルハウスを超える、ヘーベルハウスを。
超えるのは人の力。

Designer

矢島 慶太 Keita YAJIMA

1976年、愛知県名古屋市生まれ。
「RAUMFREX」でグッドデザイン賞受賞した新進気鋭の建築デザイナー。
湘南に住みサーフィンを愛する海の男でもある。

Chief Designer

荒川 圭史 Keiji ARAKAWA

5度のグッドデザイン賞受賞をはじめ、屋内緑化コンクール日本家庭園芸普及協会会長賞など多数の受賞歴をもつ。旅する目的は建築物を探訪すること。建築デザイナーたちの良きアドバイザーでもある。

かっこいい家、心地のいい家。「いい家」はへーベルハウスでなくてもつくれるはず。
では、「いい家」をヘーベルハウスでつくるための、その拠り所となるものは何か?
その答えは、家をデザインする人の力にある、と考えます。

インハウスデザイナーとして荒川と矢島が自分のなかに蓄積してきた知識や経験から生まれるヘーベルハウス。
その根底とも言える、二人の知識や経験とはどのようなものか?
どのようにしてへーベルハウスを超えた「いい家」をつくってきたのか?

そうしたプロセスを二人の対談で明らかにしていきます。

01建築デザイナーの出発点。

いきなりですが、荒川さんが旭化成に入社したきっかけを教えてください。

大学の研究室にいて就職を考えていたころ、新聞にヘーベルハウスの広告が出ていて。
それを見て、ここなら面白いことができるかも、と直感したことですね。

ヘーベルハウスの広告のどこに惹かれたんでしょうか?

一番惹かれたのは、当時流行っていたアクソメでへーベルハウスを表現していた事で、
住宅メーカーが自社の商品をこんな形でアピールすること自体が画期的に感じました。
密集した都市の中で光を上部から室内に導くという発想や、外側に閉じて、空に向かって
開かれたルーフリビングやガラスのペントハウスで2階の居室と一体化するというデザイン。
ルーブルじゃあるまいし、日本の住宅メーカーが都市の住環境を逆手にとった
斬新な空間を提唱していたわけで、ハウスメーカーとしてはかなり異端児に見えていましたね。

僕はル・コルビュジエが好きで、建築デザイナーを目指したのもコルビュジエの影響です。
彼が提唱するモダニズム建築の「5原則」というテーゼは、ヘーベルハウスのデザインにも
通じるところがあると思います。

ピロティ、屋上庭園、自由な平面、自由な立面、水平連続窓だね。
たしかにヘーベルハウスもそこを目指しているように見えるよね、なかなかたどり着かないんだけど。

僕が就職を考えていた当時は、ヘーベルハウス・フレックスを盛んにプロモ―ションしていました。
荒川さんと同じように、ハウスメーカーでもこんな建築ができるんだ、とワクワクしたのを覚えています。

02建築デザイナーが
注目する建築。

荒川さんが影響を受けた建築家は誰でしょうか?

私の世代だと磯崎新は絶対的なスーパースターで、無視できない存在ですね。
このパワーは安藤忠雄さんでさえ敵わない影響力を持っていると思う。
先日は磯崎さんの出身地の大分県にも行ってきました。

荒川さんは仕事もですけど、オフでもパワフルに動いていて、
旅行とか、建築を見る、人に会うことに対しての熱量がすごいですよね。

矢島君もサーフィンしたり走ったり、相当アクティブじゃない。
そういうのは自分にはもうできない(笑)

自分の場合、ほとんどの旅行は建築を見に行くのが目的で、今回も色々見てきたなかで、
磯崎記念館は今でも斬新な魅力にあふれていましたね。
ここにはかつての東京都庁舎コンぺに出した模型の実物が展示してあって、
大抵の建築家がコンペのレギュレーション通りの高層ビルのデザインで応募するなかで、
磯崎さんだけは低層の建物を提案して皆を驚かせた。
低層建築の都庁舎を評価する建築家は当時も沢山いたけど、 そのプランを目の前にして
本当に感慨深かった・・・とは言っても、大分旅行の本来の目的は、完成したばかりの
隈研吾のコミコアートミュージアム湯布院だったんだけど(笑)
美術館の隣には宿泊棟もあって、隈さんの設計に泊まって時間と空間を体験できたのが
とても良かった。

「泊まって体験できる名建築」と言えば、僕が訪ねたなかでは、
コルビュジエのラ・トゥーレット修道院が印象的でした。
実際に行って体感すると、光の扱い方とか、コルビュジエの視点を感じることができて、
確かにモダニズム建築の典型というか、合理的でムダがなく、機能的なことが実感できました。

私も勤続25周年のご褒美でコルビュジエ・ツアーをした時に泊りました。
ラ・トゥーレットを見るならセットで、ということでロマネスクの修道院のル・トロネを見てから
行ったんだったかな。

コルビュジエがラ・トゥーレット修道院を設計した時に、何度もプロヴァンスを訪ねて、
ル・トロネ修道院の実測を重ねてデザインのモチーフにしたんですよね。

泊まれるシリーズで言えば、マルセイユのユニテ・ダビタシオン。
巨大な集合住宅のなかの3室だけがホテルになっていて、部屋は決して広くないんだけど、
コルビュジエらしい空間でした。

やはりコルビュジエの影響は大きいですよね。最近の建築家ではどうですか?

藤本壮介は凄いと思う。どこからこんな発想がでてくるのか!?と本当に感心する。
作るものはみんな違うし、フランスにある松ぼっくりみたいなレジデンシャルタワーとか。

大胆なデザインですよね。巨大なバルコニーが開放的で、南仏で暮らす人のライフスタイルが
高層建築で実現できているのが素晴らしいと思います。
藤本さんのハンガリー・ブダペストの音楽堂も有機的な浮き屋根の構造が印象的でした。

03中間領域という考え方。

荒川さんが家の設計で大切にしている考え方とは何ですか?

個々の家づくりはもちろん大切だけど、街全体の中の一軒の家という視点が大事だと思う。

ひとつひとつの家が街の景色を構成している、という視点ですね。

例えば、シカゴのオークパークは街にはたくさんのオークが植えられていて、森の中に
住宅地を作ったかのようだった。
日本では個々の敷地に対して建ぺい率が決められているけど、オークパークでは街全体に
対して住宅の建ぺい率みたいなものが、日本に比べて圧倒的に低いんですよ。
成城の街も相当密度は低いけど、比べものにならないというか。

緑の中に佇む住宅って、家のデザインの良さが増幅するんですよね。

以前参加した都市計画学会で、日本の住宅街の景観はなぜきたないのか、という議論のなかで、
街の景色を壊す存在として、もちろん電信柱や電線の問題は大きいんだけど、家の外構にある
フェンスやブロックが景観をダメにしているというのが結論みたいになっていた。
実際、その通りだと思う。

たしかに、フェンスやブロックは家を閉鎖的にしてしまうだけでなく、街の風景を殺伐と
したものにしてしまいますね。

この問題に関しては、槙文彦さんの「見えがくれする都市」という論文のなかで、
大野秀敏さんが「江戸時代からの武家屋敷へのあこがれが、敷地を自分の領地だと
主張するように塀を建てることで、都市部の住宅地が悲惨な風景になってしまった」
と指摘してますね。

ミニ武家屋敷ですね。
道路との隙間がわずか数十センチでも敷地の周りは塀で囲いたがる。

建物の内部と外部との間の空間、更にその先の街路との関係が重要で、いかにデザイン
するか。
エドワード鈴木さんはインターフェイスという言葉を使っていて、私もよくこの言葉を
使うけど、日本の住宅地ではこのデザインが抜け落ちてしまっているものが多いと思う。

作り方の作法が確立されないまま、個々の住宅がバラバラに作っている状態ですね。

この部分を解決するデザインとしてフロントヤードとかアプローチ、カバードポーチ
なんていう考え方があって、ヘーベルハウスだと「のきのま」などが相当していて、
どれも街と住宅をうまくつなげるという目的をもったものですね。

中間領域を考えるうえで緑の存在は非常に大きく、多くの効果をもたらしてくれます。

ただ、1軒だけインターフェイスを綿密に計画した家があっても、他の多くの建物が
それを考えたものでないと、結局、街全体としての景観は決してきれいなものにはなら
ない。だからこそ、多くの住宅をつくる我々ハウスメーカーが街に与えるインパクトは
大きいわけで、責任は重大だと思いますね。

04気持ち良さの素を探す。

長く住んでいて、いつまでも気持ちがいいと心底感じる家づくりには、
それを成功させるためのルールや方法論があると思いますが、どうでしょうか。

住宅を作ることの目的は、独りよがりのかっこ良さではなくて、気持ちの良さや
居心地の良さを生み出すことにあると思う。
だから、敷地ごとにさまざまな事情や制約があるなかで、気持ち良さの素を探すこと 
がスタート地点なんです。

何を家に取り込めば気持ちが良いのか、その要因が「気持ち良さの素」ですね。
我々は与えられた敷地に対して、現地調査に何度も行って、どうしたら気持ちの良さ
を最大限にできるかを見つける。これは、社内の設計研修会でも議論していますよね。

気持ちの良さを考えていくうえで、最初にくる重要なファクターは光だね。
どんな光をどうやって取り込むか。
続いて大事なのは、家と街とのつなげ方で、敷地内と敷地外、公と私の中間領域を
考えること。こうして、家づくりの基本的な考え方が見えてくる。
他にも同時に考えていかなければならない事はだいたい14項目くらいあって、
このあたりの話はプランニング手法としてまとめて、社内研修の資料にしています。

間取りをいきなり考える設計手法では、やがて行き詰まることが多いですよね。

やはり、核になるのは気持ち良さ。目的は気持ち良さを空間にすることだから。

05デザインには理由がある。

「かっこいいデザインにするには、どうすればいいですか?」という相談を周囲の設計担当から
もよく受けるけど、カタチだけを考えた一見かっこいいデザインではあまり意味がない。
それは設計者の独りよがりで、「デザイン」とは言えないですね。

気持ち良さの素を空間に取り入れることを考えたうえで、それを空間デザインや機能性に落とし込んだ
カタチやデザインならいいのですけれど。

デザインには、そうなるなにかしらの理由が必ずあって、それを空間やカタチに結実していくということ。
あくまで敷地に対して何ができるか?気持ち良い空間のために、敷地から気持ちの良さを発見するとい
うことが、どのような家の設計にも優先されることです。

矢島君も経験があると思うけど、多くのお客様が「窓は南に面しているもの」という先入観を
お持ちで、でも、南に面した窓から光が入るということは、同時に熱も入るということなので、
夏には直射日光が差し込んで暑すぎる空間になってしまう場合や、光が入る代わりに家の前の通りを
行く人の視線が入ってきたりもする。
それより、 むしろ北側に公園があるならそちらに窓を設けた方が良くて、気持ちいい空間になる
場合もある。
このように、「気持ち良さを空間にする。」という視点から考えると、「この敷地の場合こうするのが
一番良さそうです。これは私の個人的な好みというようなものとは違うんです。」ということを
理解してもらって、何が気持ち良さの素かをお客さんと共有していくということが重要ですね。

確かに、お客様と打合せを重ねていくと、最初のご要望が、実はあまり意味がないことだったと
だんだん理解していただけるようになっていって、
「今はどうでしょうか?」と改めておうかがいすると「えっ?わたしそんなこと言ってましたっけ?」
となるケースも多々ありますね。

06変わるもの。変わらないもの。

太陽が東から出て西に沈みます。この事実は未来永劫変わることはありません。
一方、家に住む人数や家族構成などは将来的には変わっていく可能性があります。
ですから、気持ちの良い家のためには、敷地から見つけた気持ちの良さの素を
空間にする方法がいちばん合理的だと、お客様にも社内の設計担当にも伝えています。

家と暮らしという長いスパンから「変わるものと変わらないもの」という視点で考えると
優先順位は「敷地>建築物のフレーム>環境>間取り」ということになりますね。
とはいうものの、気持ちの良さの素が敷地からなかなか見つからない、ということも
ありますよね?

たとえ四方を家に囲まれている密集した住宅地でも、上を見れば敷地と同じ大きさの空は
必ず残されているので、それをよりどころに気持ちの良い住宅は作れると思います。
むかし設計した「かぜのとう」はまさにそんな作り方をしています。

気持ち良さの素は都会の場合はきれいな夜景であったりすることもあると思います。

そうですね。多くの場合、それは空や風や緑などの自然のもので、中でも光は
必ず必要。そもそも光がないと何も見えないので、視覚的には家も空間もないのと
同じで、それから先は、南の直射光である必要もなく、北側の天空光でもよくて、
光の量、反射、陰影などすべてを計算し尽くして、心地よさを演出していくわけです。

07美しさは細部に宿る。

大きさ・光の入り方・床や壁の素材がまったく同じ空間でも、キリッとした緊張感が
あって、引き締まったきれいな空間がある一方、どこがどうとは明確に言えないけれど、
何か冴えない空間があります。
パッと見は気づかないかもしれないけれど、我々がみれば壁や天井の納まりや仕上げなど
細部にわたる陰影がちがう。もし、ふたつの空間を見比べることができれば、
一般の方でも、その違いに驚くはずです。

自分達はそうしたデリケートな細部の表現にデザイン作業の多くの時間をつかっているし、
ここがデザインワークの重要なポイントだと言えるね。間取りを決めていくことは、
基本だけど本質ではないし、それほど難しいことじゃない。

デリケートで微妙な陰影の表現に影響する収まりや仕上げなどの細部の詰めは
施工に入る前に確認する必要があるので気が抜けないポイントですね。
荒川さんは、そうした確認やシミュレーションをどのようにされていますか?

自分の場合は、スケッチブックにいくつものパターンを手書きで描いて詰めていく。
物や納まりにヒエラルキーを与える作業をしているという言い方もできると思います。
むかしからこのやり方、これが自分に一番しっくりくる。

荒川さんのスケッチブックは、各邸ごとのアイデアの記録がつまっているので、
お客様に記念に欲しいと言われたりするんですよね。
僕の場合はスケッチアップを使って、納まり・陰影などの確認や立体的なシミュレーション
を行って、 デザインアイデアを拡張しながら徐々に詰めています。
寸法をしっかり反映したCGなので、細部の取り合いも確認できて、僕にとっては
欠かせないツールですね。
精度の高い設計をすることによって、現場で品質の高い施工ができることも心がけています。

08建築デザイナーの自邸。

荒川さんもご自宅を自分で設計されたんですよね?

自分たちが自分の家をつくることとは、建て主とデザイナーが同じってことでしょ。
思い通りにどんどん進められていい半面、予算面も全部自分で調整するわけなので、
妥協も簡単にできてしまう部分もあるし、難しい点もあるよね。

デザイナーが設計した自邸、というプレッシャーもあるし(笑)。

しかし、自分で自分の家をつくる経験は、建て主さんの気持ちがわかって、とても役立つこと
ではあると思う。自分は、入社してわりと早めに家を建てたんだけど、土地探しからスタートした。
敷地の条件は、子供が保育園に通えて資金的にも買えそうなところ。
当時はGoogleMAPなんてないから、売り出された土地を航空地図を見ながら探して。
ようやく決まった土地は、通りから玄関までが20メートルもある長い路地上の土地で、
価格は割安だったけれど、一見好まれる敷地じゃない。
でも長い裏路地をまるごと玄関へのアプローチと考えて、樹木の緑で公園みたいにして、
路地をまっすぐ進むのはつまらないので、わざと曲がるように角々に植樹することにした。

自分が建てた当時は吹抜けはまだ珍しかったと思うのだけど、その頃のへーベルハウスは
まだ断熱性能が あまりよくなくて、冬は結構寒いんだよね。
矢島君の家は割と新しいヘーベルハウスだから、 断熱性能も上がっているので寒いとかはないよね。
羨ましい(笑)

はい(笑)おかげさまで快適に過ごしています。

僕の場合、自宅の設計に当たっては、家がしっくり街になじんで主張しすぎない、
ということを第一に考えました。
僕の住むエリアは海岸に近くて、防風林で囲まれている家も多い、ゆったりとしたいい雰囲気
の街なんですが、だんだん新しい家ができてくると、さっきの話の「ミニ武家屋敷」みたいに、
周りの風景に似合わない塀で囲ってしまう家も多くなってきて、街の景観としては残念なことに
なっていることも多々起きています。
だから自邸の設計では、公道と家の境界にフェンスなどを「建てない」、ブロックなどを「積まない」、
サイディングボードなどを「貼らない」という、街と家を隔てない中間領域の原則は守りました。
家に来た人はアプローチを楽しみながらだんだん玄関に近づく感じになっていて、街並みの美しさ
にも貢献できたんじゃないかと自負しています。

玄関に着くまでに敷地の中を歩くという行為は、気持ちを切り替えたり、それ自体が
インターフェイスとしてとても豊かな空間を生み出すんだよね。
あっ、そういえば、まだ新居に呼ばれてない(笑)

そこですか!あれこれつっこまれるので、設計の先輩たちは怖くて家には呼べないです(笑)

ところで、最近は「いい家」をつくるために、インスタやピンタレストを見て情報収集されている
お客様も多くて、外観デザインやインテリアに関心が高い方が増えている印象があります。
こうしたお客様と建築デザイナーとの関係で、大切にしているポイントはどんなことでしょうか?

お客様がいろいろな要望をお持ちなのは当然のことで、大事なのは我々がお客様とどれだけ
価値観を共有できるかどうか、そこが勝負だと思う。

僕は、家具やインテリアについての知見も蓄えようとしていますが、ロケーションや周辺環境を
味方にしながら、気持ちの良い空間づくりに総合的にお応えしたいと思っています。

自分らの提案にお客さんも一緒になってワクワクして期待してくれたら、
我々はその期待に応えるよう全力を尽くす。大変なことも多いけど、やりがいがあって面白い仕事だよね。

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