前回は「窓から入るものは、主に5種類がある」「住宅設計をするには、窓の役割を理解する必要がある」という話を、東京デザインオフィスの荒川に語ってもらいました。 当たり前すぎて、知っているようで実は知らない「窓のこと」がよく分かる「窓図鑑」の2回目は、いよいよ間取りを設計をするときの、窓の話へと入っていきます。 「間取りの設計」と「窓の位置」と、どちらを先に考えるのか? そこで重要になるのが、窓から取り入れる5種類のうちのひとつ「光」です。
荒川 圭史 あらかわ けいじ/東京生まれ
1985年 東京理科大学工学部建築学科卒業
1987年 同大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程終了
1987年 旭化成工業㈱入社以来東京の城南エリアで邸別の設計業務に携わる
「フレックスレジデンス成城モデル」によるグッドデザイン賞など受賞多数
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真っ先に考えるのは「外からの光を、どこから取り込むか」
住宅を設計する段になったとき、真っ先に考えるのは「どこから光を取り込むか」です。これから住宅を建てる現場の状況や立地から、そこにどんな窓を付けられるかを考えて、それから、どういう空間を持ってくればいいのか、という順序で考えていきます。 つまり、先に間取り図があって、どんな空間があると規定してあるところから、窓を決めるわけではないのです。これから家が建つ土地を実際に目にして、この向きに、この高さに、こういう窓を取り付けると、どんな光を取り込めるかというアイデアが先にあって、「その光を取り入れられるスペースは、どのような空間として使うべきか」という順序で決めています。 間取りを作るのはどちらかというと、その後です。厳密にいえば、窓があって間取り、という順ではなく、建築デザイナーは、それを同時にやっているんです。「どこから光がくるか」「どこに風が抜けるか」「そこから何が見えるか」という"窓から取り入れるもの"を意識していて、この敷地のなかにどういった部屋を置くか。その結果が間取り図となるのです。そのなかでも、最初に考えるのは「光」です。
「光そのものは見えない」のに、"見える光"は3種類ある?"
ここでまた、知っておかなければならないことがあります。「光を窓から取り入れる」と聞いて、不思議には感じませんよね。でも、光って実は"見えない"のです。もっと正確にいえば「光そのものは見えない」のです。 ピンとこない場合は、窓から入ってくる、一筋の太陽の光をイメージしましょう。窓から太陽を眺めれば、太陽そのものが照り輝くのが見えます。これは「光源」ですね。家のなかに目を移すと、光っているのは、その光の筋に照らされた床や壁、空気中のホコリですよね。これらは物体に当たって「反射した光」です。窓に障子があれば、障子紙を「透過した光」が白く光ります。 照明の教科書などを読むと、照明となる光の種類には「光源」、「反射した光」、「透過した光」の3つがあると説明されています。
人が美しく感じるのは、3種類の光のうち、「反射光」と「透過光」
"見える光"が3種類あるのに関連して、理解しておくべきことが、もう一つあります。人がきれいだと感じる光は、「反射光」と「透過光」だということです。太陽を直接見ると、まぶしくて見続けるのは苦痛ですよね。つまり「光源」は、きれいだと感じる光ではないのです。 実際の建物で見ると、よりよく伝わると思います。これは「FREX RESIDENCE 成城モデル」を夜に撮影した写真です。
窓から漏れる照明の明かりの、光源がなるべく外から直接見えないように設計されています。壁や天井を照らして、その反射した光が外から見えるようになっているのです。 「きれいだと感じる光」を理解していると、照明を作るときにも役立ちます。良い照明は、絶対に光源が見えないんです。デンマークの照明メーカーLouis Poulsen(ルイス・ポールセン)社のデザイナー、ポール・ヘニングセンが1958年に発表した、ペンダント照明の名作といわれる「アーティチョーク」などは、その好例ですね。
何がすごいのかというと、どの角度から見ても、光源になっている電球が見えないようにデザインされていて、室内を照らす光は、シェードに反射する光だけなのです。 「照明をどうデザインするか」と、「外から入ってくる光をどうコントロールするか」は、実は根っこは一緒です。照明作りや照明計画がうまいデザイナーは、窓作りもうまいですね。 窓から光を取り込むためには、光の種類がまず分かっているかどうかがポイントになってきます。しかし、天空光にしろ、直射光にしろ、やみくもに窓をつけてもいい光は入ってきません。それでは、その場所に窓を取り付ける意味がないですよね。もし、「気持ちのよい光」をつかまえられる窓が設計できても、そこから入って来た光を透過させる障子や、反射する床や壁の設計がうまくないと、せっかくつかまえた「気持ちのよい光」を「気持ちよさ」につなげることができなくなります。 窓から取り入れる5種類のもののなかで、光のことを最初に考えるのは、そういう理由があるのです。