vol.2:ちょっと"微妙"だった「ファーストプラン」
(vol.1から続く)
──デザイナーの荒川からご提案させていただいたファーストプラン。第一印象はいかがでしたか?
香苗さん:もともと私たちが見ていた荒川さんのデザインは、奇抜じゃないんだけど、アイデアがあって、ちょっと"普通っぽくない家"が多かったんです。そういうのを期待していただけに、最初にご提案くださったプランは、すごく普通っぽくて、あまり魅力的に思えなかったんです。
──おふたりが期待していた方向とは、すこし違ったわけですね。
正浩さん:そうです。そもそもこの土地は形も場所もいいので、特別変わったことをしなくても、普通に、住みやすいプランになるんですね。でも、私たちはこれまでの荒川さんの「ちょっと変わった家」を見てファンになっていたので、ふたりで「あれ、なんか普通だね」って。
あとで荒川さんがおっしゃっていたのは、プレゼンのときの私たちの反応があまりに薄かったので「これはまずいぞ」って思ったそうです(笑)。
──そのあと、荒川とはどんな話をされていったのですか?
正浩さん:その場で自分たちの要望を荒川さんに伝えました。もうちょっと空間的なつながりがあって、それでいてある程度仕切りもあって、相手の存在は感じられるけれど、視線は遮られていて......といった空間のイメージです。
それから「屋上が欲しい」ということ。ただし、スペースの問題があるので、らせん階段かハシゴにしないと無理だといわれました。でも、どちらも高齢になったら上り下りが大変ですよね。そこで思いついたのが「じゃあ、屋上までエレベーターを通してみたら?」というアイデアだったんです。
──それも家の真ん中に、1本の柱のようにして。
正浩さん:この家のランドマークみたいにして、その周りを飾り棚みたいにしようって。そのアイデアを荒川さんから聞いた瞬間から、打ち合わせがかなり盛り上がって、すごくワクワクしたのを覚えています。
──アイデアがひとつ出たことで、向かうべき方向性が明確になったわけですね。
正浩さん:エレベーターを真ん中に置くことで、空間としてのおもしろさだけじゃなく、私たちが要望していた、ある程度仕切りがありつつ、空間的にはつながっていて......、ということも同時に実現できるぞってなって、そこから一気にプランが魅力的になっていきましたね。
自分たちの生活に照らし合わせて考える
──大枠の方向性が決まったあと、具体的にデザイナーに相談したことはありますか。
香苗さん:まず、キッチンを広くしてほしいということ。それからトレイですね。トイレを1階と2階のそれぞれに設置したいと伝えました。
正浩さん:もともとの提案では、リビングのある2階にはトイレがなかったんです。でも、夫婦で話しているうちに、生活のメインが2階になるんだったら、やっぱり2階にもトイレが欲しいねって。
それで次の打ち合わせのときに荒川さんに相談して、どこなら設置できるかをいっしょに話し合いました。実際に住んでみても、2階にトイレをつくって本当に良かったと思います。
──寝室は1階にありますが、最終的にはかなりコンパクトにされています。ここはどのような話し合いがあったのでしょうか。
香苗さん:以前、賃貸に住んでいたときから「寝室は寝るための空間」と割り切っているので、ベッドがちゃんと入って、普通に歩くスペースがあれば十分なんです。寝室は本当に寝るときしか使わないので、照明もほとんど点けないくらいなんです。
正浩さん:はじめのプランでは、寝室のスペースはもっと広くて、大きな窓が2面あって、そこから庭に出られるようになっていました。でも、妻は虫が大の苦手だし、寝室から外に出る必要性も感じられなかった。なので、そのことを正直に荒川さんに伝えて、いまのプランに変更してもらったんです。
──自分たちの生活に照らし合わせて、いるものといらないものの判断がとても明確だったんですね。
正浩さん:そうですね。「いる、いらない、こうしたい」っていう、カチッと決まっているところは荒川さんにお伝えして、それにしっかりと応えていただきました。
逆に、まったくイメージできない部分は、荒川さんを信頼してすべてお任せしました。自分たちが譲れないところと、お任せするところのメリハリは、かなりハッキリしていたと思います。
(vol.3に続く)
デザイナー・荒川からのコメント
最初のプレゼンのことはよく覚えています。お二人がおっしゃるように、おふたりの表情を見て「これはまずいぞ」と思いましたね(笑)。早い話が、トリッキーなことをしなかったんです。スペースの無駄がなく、使いやすい、いわゆる王道なプランをご提案しました。
もちろんそういうプランにした理由もあります。我々がご提供するものは、建築家がつくる「作品」とは違いますから、最初からアイデアを詰め込んだプランを提案するということは、普通はありえません。
ただ、Iさんご夫妻はスタンダードというより、空間にもうすこし刺激を求めていらっしゃった。なので、どのくらいの刺激やアイデアを求めているのか、会話をしながらおふたりの要望を引き出し、全体のバランスを見ながらそういう要素をプランに散りばめていきました。