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【HailMary12月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #8

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ハウスデザイナーからの手紙

【ヘイルメリー12月号掲載】

ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第8回」

町と住宅の関係を考える2

もう20年以上前ですが、社内の研修でワシントンDCに行かせてもらったことがあります。この時日米でずいぶん住宅の作り方が違うのだと思いました。日本では方位が重要でことさら南を重要視しますが、アメリカの住宅では方位は無視されていました。道路側はきれいに芝が植えられたフロントヤードとしてのアプローチ空間となり裏側はアクティビティの場としての大きなバックヤードとなります。敷地が大きいので北側でも庭には必ず陽は射します。日本では状況はまるで異なり、道路に面していようがなかろうが南側が庭、アメリカでいうバックヤードになり、たまたま道路が南側だと庭とアプローチが同じ側になります。従ってアメリカ郊外の住宅はみな道路に顔を向けているのですが、日本の住宅は道路の向きによって、顔を向けたり、おしりを向けたりまちまちになります。日本の街並みがばらばらなのはこの考え方の違いよる部分も大きいと思います。

同じワシントンDCでも少し都心のジョージタウンに行くと、敷地は小さくなり建物は日本の長屋とか町屋のように隣と接して建っていて、道路に面して地下室のドライエリアがあり、そこをまたぐようにアプローチの階段がついているという形式に変わります。記憶の中のジョージタウンはこうなのですが20年も前のことなので美化されて記憶が書き換えられているかもしれません。いずれにしても街路と住宅の関係は理にかなったルールのようなものがあり、その街に一番ふさわしい形が出来上がり、街並みはとてもきれいです。

ところが我が東京の住宅地は、もちろんきれいなところもあるのですが、たいていは統一感なくばらばらな印象を受けることが多いのはいったいなぜなのかと、ずっとかんがえていました。あるとき槇文彦さん他著の「見え隠れする都市」という著書の中で大野秀敏さんが、道路と街路の隙間がわずか数十センチでも敷地の周りは塀で囲いたがる現象を「ミニ武家住宅」なる言葉で表現している件があるのですが、これを読んだ時に今までの違和感の原因がこれだったかと腑に落ちたことがあります。それでも子供のころは、塀は生垣のことも多かったのですが、サザエさんでは板塀でしょうか、私が設計を始めたころからはコンクリートブロックとアルミのフェンスに変わり、目隠しにもならず、美しいわけでもなく、意味なく敷地を囲っているまさにミニ武家屋敷が増殖していきました。電柱、電線、を含めコンクリートブロック、アルミフェンス、はさながら日本の住宅地を醜くする四天王といったところでしょうか。

この状況を何とかしたいと考えている中で「おたがいさまハウス」という住宅を作ったことがあります。ここではいろいろ試しているのですが、代表的なものは、フェンスはたてずに窓の前だけに木の格子を使って部屋の中と街をつなげるということをしています。これは新しい考え方でもなく町屋のミセノマと呼ばれる空間を現代の住宅に再現しただけなのですが、そうすると室内と街路空間の関係や街並みが激変しました。以来住居内と街路空間を結びつけるインターフェイス(この言葉は以前鈴木エドワードさんが講演の中で使っていた言葉ですが)の重要性を強く意識するようになりました。

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*荒川が設計した「おたがいさまハウス」の内観と外観。町屋のミセノマを現代の住宅に再現し、近隣の家や道路との境界にブロックやフェンスを設けず、窓の前方だけに木の縦格子を用いて住居と街をつなぐインターフェンスを完成させた。

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