東京デザインオフィスのマツオです。
ヘイルメリーで好評連載中の荒川のエッセイ「ハウスデザイナーからの手紙」は前号に引き続き、街と住宅のかかわりについてのお話です。今回ご紹介しているへーベルハウスは、海外と日本を行き来し、多忙なお施主様が日本で快適に、ゆったりと過ごすための「都会の別荘」です。まもなく東京デザインオフィスの建築実例にもアップいたします。
【ヘイルメリー2019年2月号掲載】
ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第10回」
街と住宅の関係を考える4
今回は街と街路をつなげるインターフェイスの実例をもう一つ紹介します。東京の緑豊かな住宅街の街路に面した住宅の計画です。街路にいる人も住宅内にいる人も、多少の気配は感じるが、お互いに気兼ねは不要という状態を作るということが、心地よい住宅を作るための条件だと考えていますが、この計画では敷地と街路の高低差と緑を使ってお互いの関係を成立させることを考えました。
敷地は道路より1.5m位高い状態にあり、このくらい高低差があると車を地下に押し込んでしまいたいという気持ちと、それはそれで少し高さが足りないことで設計が急に難しくなるということもわかっているので、迷うところなのですが、このケースでは険しい道を選択しています。車を住空間よりも下にもぐらせることでその上をテラスとすることができ、テラス全体をインターフェイス空間とすることが出来そうでした。
このスケッチはまだ具体的な設計に入る前のアイデアレベルのものですが、メインの住空間をそこに連続させることで街路からの絶対的な距離も稼げ、生活レベルの視線と街路にいる人の視線を上下にずらすことで、さらに落ち着きと潤いのある居心地の良い空間が生まれます。このスケッチを描いたころはテラス部分全体をキャンティ架構として車路の高さを稼ぐようなことを考えていましたが、最終形は先端の梁だけ逆梁として車路の高さを確保することにしました。そうすると梁天端がテラスの床から780mmとなりテーブルとして使うのにちょうどよい高さになるので、梁からテラス側に跳ねだしのスラブを設け、それをテーブルとして使うというアイデアを提案しています。
ついでにこのテーブルの上部の壁に開口を穿ち、外の気配がわかるようにして、街路樹の桜が見えるようにしています。さらにその間、敷地内にも植栽スペースを設け、そこに高さ8m位の大きなヤマボウシを植えることで街路樹の桜と敷地内のヤマボウシが重なり合い、奥行きのある景観を生み出しています。
この樹があるおかげで街路空間にも潤いが生まれます。テーブル面と梁天端はラミナムという薄くてかたい大判タイルで仕上げ、テーブルとしての平滑な状態と上部からの照明の光が反射して全体を明るくするリフレクターとしての機能も持たせました。