【ヘイルメリー2019年3月号掲載】
ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第11回」
街と住宅の関係を考える5
街と住宅を考えるというテーマでのコラムが今回でなんと5回目になりました。これは住宅の計画をする上で街との関わり方を考えることがいかに重要であると考えているかということの表れでしょうか。
砂漠の真ん中に計画するわけでもなく、仮にそんな条件だったとしても、周辺環境とどのような係わりを持つかがその住宅の心地よさに直結するわけで、ましてや街の中に建つ住宅は街とどう向き合っていくかを考えることが計画の出発点になるわけです。今回紹介する住宅は建物の周りに塀がない家です。建物の外壁がそのまま街とのインターフェイスになっています。
建蔽率50%、容積率100%というのは、過密な下町の街並でもなく、建蔽率40%の厳しい制約の中で成立するゆったりした閑静な住宅地というほどでもない、郊外の住宅地にはよくある密度の街並です。実際に街に出てみると、手本にしたいような物は実はあまり見かけることが出来ず、この制約条件の中で約40坪の土地に40坪の住宅を作るというのは、ありそうでなかなか巡り会わないチャンスかもしれないと思い、郊外の住宅としてのプロトタイプになりえるようなものができるかもしれないと考えていた気がします。
この規模の住宅を考えていく場合、車の置き方と道路の方位で計画が大きく変わってしまいます。そもそも必要かどうかという話もありますが。構えが立派に見えるからということなのか車は道路と直角に置きがちですが、そうすると土地はL型に残りそこにアプローチ、庭、主空間などのゾーニングを考えていくことになります。
この時点ですでに何かごちゃごちゃしている印象が濃く、空間同士は狭い中で押し合いへし合い、また街路とうまく折り合いをつけるためのインターフェイスは複雑になり、全体として要素が多すぎて息苦しくなっていくなと、そんなことを考えながらお客様と一緒に土地を見ながら計画の骨格を考えていました。
車が重要かどうか、家と車の関係をどう考えているかをその場で質問し、それほど大きな関心事でないことがわかり、車は縦列駐車とし建物の外にバサッと追い出して、残りの土地に潔く平面がほぼ正方形の箱を置き、そこに潤いのある生活空間を担保するための中庭として4坪、ちょうど8帖の決して大きくはないボリュームをくりぬき、家じゅうがそこを向いて生活するという空間を考えました。
中庭と道路の間には建築の壁があり街路と生活空間になる住宅の内部を区切っています。この壁の二階部分は大きく刳り貫いて中庭に植えたアオダモが街路空間と生活空間のつなぎ役を果たすようにしています。
出来上がった住宅はこの壁と穴のインターフェイスの内部も外部の街路空間も潔さと潤いのある気持ちの良い空間として成立しています。