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【HailMary5月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #13

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ハウスデザイナーからの手紙

【ヘイルメリー2019年5月号掲載】

ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第13回」

借景

借景という言葉は、建築の専門用語というわけでもなく、日常会話の中でも普通に使われていると思います。しかし「借景」は伝統的な意匠世界の中で、特に造園の技法を示す言葉であり、はるか遠方の景観を庭園の構成上重要な要素として生かそうとすることをいう、と昔読んだ本の中にあります。単純に窓から隣の木が見えるというようなことではなく、もっと深い意味があるようです。

借景といえば円通寺、というくらい円通寺の借景は有名です。写真はもう10年も前に桂離宮、円通寺、修学院離宮を一日で回るという一見豪華なように見える貧乏旅行に行ったときに撮ったものです。改めて写真を見直すと、今のカメラだと、特殊な加工をしなくとも二種類の露出で撮った写真を勝手に合成してくれたりするので、手前の室内と遠くの比叡山の両方がくっきり見えるような写真を簡単に撮れるのですが、当時のカメラにはそんな機能はなく、どちらかしか写らない写真になってしまうことが多かったのですが、一枚だけかろうじて両方を判読できる写真がありました。

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軒と縁側と柱で景色を切り取り、その先にコケと石の庭を作り、ここが味噌だと思いますが、もう一度きれいに刈り込んだ潅木で水平ラインを整え、先の道にいる人の気配を完全に消し、ヒノキ並木の幹で遠景を更に分節し、遠くの比叡山をフレームの中に切り取るという操作を繰り返すことで、比叡山を身近な景色として独占するというような手の込んだことをしています。そうして出来上がった風景は幾重にもレイヤーが重なり遠景と近景がひとつの絵として成立し、印象に残る景色として見に行った人の心をつかんでいます。

普段住宅を計画するときにいつもここまで計算しつくした手の込んだことができるとは思えませんし、そんな土地はめったにないのですが、どんな場所であっても計画を始めるときに回りの環境との関係を考えていくのは当たり前のことで、敷地に隣接して公園があったり、桜並木があったりというときは当然借景という言葉が頭をよぎります。西側が開けているようなときにはついつい富士山が見えるかなと考えてしまいます。実際には東京からは富士山は遠すぎてなかなか借景としては成立しにくいですが。

敷地が、公園に面しているとか、桜並木に面しているような、いかにも借景してくださいといっているような敷地で設計ができる頻度は多くはないですが、それほど特殊なことでもありません。逆にそんな土地を求めて新たに土地を購入される方もいらっしゃいます。もう少し範囲を広げると海が見える景色を求めて土地を購入するケースもあります。こんなラッキーな状況に出会ったときには借景という言葉の意味をもう一度深彫りして考え直すということが、気持ちの良い空間を作り上げる手助けになると思います。

次回から実際に借景をコンセプトにした実例をいくつか紹介したいと思います。

引用:『キーワード50』より「用と美の伝統を汲み取る用語」

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