【ヘイルメリー2019年7月号掲載】
ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第15回」
借景 喧騒を隠すという手法
今回紹介するのは、西側に道路、幅員は4mでその向かい側に児童公園があるという敷地に建つ住宅です。
児童公園というのが微妙な存在です。
向かい側にアパートがこちらを向いて建っているとか、背の高い建物が太陽を隠してしまっているという状況に比べればずっとよいのですが、砂場や児童遊具があり、昼間は保育園児の遊び場であり、子供連れのお母さんの社交場でもあり、午後になると小学生が集まってきて遊んでいて(小学生が集まってきてというのは私の記憶の中の児童公園のイメージで、いまの子供たちは公園で遊ぶことはあまりないかも知れませんが)、いずれにしても緑豊かで静かな環境というイメージの公園とは別の物です。そこに大きく開いても、そのままでは決して落ち着いた居心地の良い空間にはならないと思います。なんとなく埃っぽく、騒々しい居場所になってしまいそうです。
うるさいという感覚も結構怪しい物で、同じ音がしていてもその発生源が見えているのと隠れているのでは感じ方も違うと思います。また見えている景色の一部分を隠してしまうと残りの部分はまったく別の景色に見えたりするわけで、これがまさに借景のひとつの手法なのだと思います。
今回現地を初めて見たときに、児童公園というものをこんな風にあれこれ考えながら、しばらく眺めていたのですが、このあたりから下を見なければ悪くないかなと思い、持っていたスケッチブックで下半分を隠してみました。
そうすると全景を見ているときとはまったく別の良い感じに見えました。実際の計画でも、道路に面してコンクリートの塀を建てるという方針で計画を進めていきました。このときの塀はやはりコンクリートが良く安心感が生まれます。構造的に必要な厚みというのもありますが、厚みもある程度厚いほうが良い気がします。高さをどの高さにするのかも非常に重要で、これはその場所の状況によって違ってくると思いますが、中から見るのと、外から見るのとでは印象がかなり変わってしまいます。
コンクリートブロックでは頼りなさや危うさがにじみ出てしまうのでだめです。
最近は腐らない木の技術も進化してきて(このあたりの話はまたいつかしたいと思いますが)、板塀というのも悪くないと思っているのですが、安心感はだいぶ薄れます。また今の法規では防火地域や準防火地域の場合、実は東京の23区内はほぼ全域が準防火以上の制限が厳しい地域で、2m以上の塀は不燃材で作るもしくは覆う必要があるので、これもなかなか難しいのです。
住宅をデザインするということは、外から何を取り込んで何を取り込まないかをきめることだと、誰かに聞いた話なのか、どこかで読んだ話なのか良くわからなくなってしまっていますが、それは紛れもない事実で、この計画では昼の喧騒と外部からの視線は取り込まず、樹木の上部の景観と西からの光、赤い夕日、そしてその後のマジックアワーといわれる時間帯の広く青い空を取りこむというデザインをしています。