【ヘイルメリー2019年8月号掲載】
ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第16回」
借景 キャベツ畑の中の一軒家
あまりにも景色が良かったりすると、建築でできることは逆になくなってしまうようなこともあります。以前どこかのコンペの講評を読んだのか聞いたのか、良く覚えていないのですが、景色は良く、室内からの眺望は抜群で文句なく気持ちが良い空間であることは写真を見ただけでも容易に想像が付くすばらしい住宅の評価が、「これはずるい」というものでした。周囲の景色があまりにも美しかったりすると、建築は何もしないという選択をしたほうが良いような気がします。逆に何もしないことがとても難しいのかも知れませんが。
今回紹介するキャベツ畑の中の一軒家もまさにそんな類まれな周辺環境の中に計画することができた住宅です。法規上普通に住宅が建てられるような場所ではないので、どうしてもともとここに家があったのかはわからないのですが、もとは延々と広がるキャベツ畑に中に、ある住宅メーカーが建てたオレンジ色の瓦屋根が載った住宅が建っていました。
周囲の人たちからは、オレンジ屋根の家と呼ばれて親しまれていたようですが、この家をヘーベルハウスに建て替えるという話が持ち上がりました。
この家の立地は半島の先端ではなく途中に建てる計画だったので、海に向かう斜面に正対してしまうと景色の良い方向と斜をむいてしまうので、建築側はコーナー部分を抜くように景色を切り取っていくような作り方をする必要がありました。普段は気持ちよさのよりどころにしている樹木が、今回に限っては逆に邪魔者になっていました。
実はこの住宅のオーナーは職場の先輩で、以前は一緒にバンドを組んでいた、設計もされていた方で、計画自体はご本人がされ私はお手伝いをしただけなのですが、出来上がった住宅はすばらしい物になりました。もとの家では閉じてしまっていた海の見える方向に大きく開き、遠く富士山まで望めるすばらしい眺望を手に入れた、とても気持ちの良い住宅になりました。
やはり長年そこに住んでいる本人がその場所のいいところを一番良くわかっているということです。
海に直接面していることで、台風のときはとても恐ろしく、元の家の華奢なサッシだと風で窓面がはらんでしまい、いつ壊れてしまうのか不安だったようなのですが、ヘーベルハウスになり、台風のときでも中は静かだし、まったく恐怖感が無くなったと話されていました。オレンジ屋根の家ではなくキャベツ畑の中の白い箱の家として、新たなランドマークになってくれればと思っています。
絶景ポイントを借景したリビングとテラスはカフェになっています。気持ちの良い空間を体験しに行ってみてはいかがでしょうか。
◆今回ご紹介したへーベルハウスの絶景カフェはこちら◆
三崎口Cafe Sunset Terrace Asora (サンセットテラスアソラ)
Instagram: #cafe_kuro