【ヘイルメリー2019年12月号掲載】
ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第18回」
ウッドデッキの話 その2
20年前だとお客様にリビングの前にウッドデッキを作りましょう、という提案をしても、メンテナンスが大変そうだし、腐ってみすぼらしくなるでしょ、だからいりません。といわれるのが落ちでした。こちらもウエスタンレッドシダー位しか選択肢がなかったので、やむを得なかったと思います。最近になって技術が進歩したのか、使い方が分かってきたのか、ウッドデッキは日本の住宅でもようやく市民権を得るようになってきました。今回はその変遷について書いていこうと思います。
前回も書いたように初期の頃は腐るのは仕方がないという前提で、ウエスタンレッドシダーやたまに唐松なども使われていましたが、耐久性やシロアリの問題もあり、デッキの気持ちよさは分かるけれど、メンテナンスを考えると採用のハードルは高かったようです。
その頃から使ってはいたと思いますが、デッキの代名詞ともいえるのがいわゆるハードウッドと呼ばれる熱帯広葉樹のデッキ材です。もっとも信頼性は高かった素材だとは思いますが、高価で、簡単には使えませんでした。セランガンバツ、ジャラ、クマルといろいろありますが、代表選手はイペかと思います。耐久性はありますが、それでも腐らないわけでもなく、環境保護的に問題もありそうで、また硬くて加工が大変すぎるという問題もあり、ハードウッドがデッキ材の決定打には成りきれなかったと思います。
これは2008年に竣工した蒲田の展示場のテラスです。とてもきれいですが、ここの施工のとき、大工さんがものすごく苦労されていたのを間近で見ていました。何しろ丸鋸も、ルーターも歯が立たず、一日でだめになっていました。おまけに硬いがためにおがくずが細かくなってしまい、大工さんのつめの中に入り込んで取れなくなり、痛いと悲鳴を上げていました。というようなこともあり、あまり積極的に使わないようになっていきました。
時代はもう少しさかのぼりますが1996年新宿に高島屋タイムズスクエアがオープンしました。ここは一時期仮に住宅展示場として使っていた時期もあり、ヘーベルハウスも建っていました。
タイムズスクエアがオープンしたときには、線路沿いにボードウィークがあり、樹種は分かりませんがハードウッドのデッキがありました。ただし天然木はやはり耐久性に無理があるのか当初はだめになった部分を新しい木に置き換えていましたが、気が付くと樹脂木材に置き換わり始めていました。つい先日、今はどうなっているかと見に行ったのですが、既に樹脂木材ですらなくなって、コンクリート平板に置き換わっていました。美しさ、気持ちよさとメンテナンスコストの問題は簡単な問題ではないということです。
ハードウッド材と並行して木を熱処理したサーモウッドという材料も使っていました。これは、サーモウッドを使ったデッキと格子の例です。木材は熱を加えると耐久性が向上するので、木を蒸し焼きにすることで耐久性や寸法精度を向上させる技術のようです。
*サーモウッドを使用して和風空間を演出したデッキと格子の事例
話は少し横道にそれます。原理は少し違うのかも知れませんが、日本にも昔から焼きすぎという技術があり、木材を焼くと耐久性があがるということは経験的に分かっていたようです。香川県直島では焼きすぎの板塀を、町をあげて推奨しているようでした。
*香川県の直島町は「まちづくり景観条例」に基づいてブロック塀を「焼きすぎ」の板塀に改修した
こういう活動が東京でもできると、コンクリートブロックとアルミの塀で囲われた街ももう少しきれいになると思うのですが。
この後、デッキ材はリブ付きの木樹脂デッキ、アコヤ、ガラス含浸木材へと展開して行くのですが、その話は次回に書きたいと思います。