【ヘイルメリー2020年2月号掲載】
ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第19回」
ウッドデッキの話 その3
住宅の設計をするうえで、ウッドデッキの存在は非常に影響が大きく、その耐久性が計画の方向を大きく左右してしまいます。イメージ通りの空間が作れるかどうかは材料の耐久性能によるところが大きいのです。
ウッドデッキは、厚みのある針葉樹を使っていた時代からイペ等のハードウッドと呼ばれる油分が多く耐久性が高い重たい南洋材や、熱処理した木材を使うのが主流の時代に変わりました。しかし、いかに南洋材の耐久性が高くても、いずれ白くなり、じきに腐るという天然の木材であることの宿命は避けて通ることはできず、そこが味だという人がいるかもしれませんが、その変化のスピードとメンテナンスの手間は世の中には受け入れられず、次第に樹脂木材が台頭してきます。
樹脂木材は、大雑把に言うとプラスチックに大鋸屑を混ぜた材料で、木の色に似ているし、木の匂いもします。中には鉛筆の材料を使って作っているので、鉛筆の匂いがするデッキ材というような変わり種もありました。ただし表面はつるっとしていて、見た目はプラスチックの簀の子にしか見えず、積極的に使いたいと思えるものではありませんでした。それならばいっそのことウッドデッキなんだから木の色という概念を捨て、白い色のデッキ材を使うという選択もありかと思い使ってみました。
白いデッキというのはいったいどういうことなんだと自問自答しましたが、実際にあるかどうか知りませんが、サンタモニカのビーチにサーフボードが立てかけてある白いペンキを塗ったデッキっていかにもありそうかなと勝手に妄想していました。もしくは、はじめからきれいにエイジングしている木材というイメージなのかもしれません。
実際に商品になっている白っぽいデッキ材というのは後者に近く、ペンキを塗ったような白ではなく、室内のフローリングで最近よく見かけるホワイトオイルを塗ったエイジングした白に近い茶色くらいの色です。実際に使ってみると、当たり前ですが白は光の返りはよく、ちょうど白洲に反射した光が室内に入り込んでくるのとまったく同じ理屈で、室内が非常に明るくなりました。こういう屋外の空間も一つの完成した形だと思っています。
*白い樹脂木材を使用したデッキの例
しばらくすると、つるっとしていないリブ付き、それも均一でないリブがついた樹脂デッキを見かけるようになり、これなら良いかと使い始め、ここが取り敢えずゴールかと思っていました。このころ同じ樹脂の材料でも全く違ったアプローチをしている彩木という商品も出てきていました。これは今ヘーベルハウスのベランダのデッキ材として採用されています。アルミの骨に浮造り(ルビ:うづくり)のように木目を型押しした樹脂材を巻き付けたハイブリッド構造で木の色に塗装したもので、近くで見ると左官の擬木のようでわざとらしいのですが、遠目に見るとちゃんと木に見えます。夏の直射光を浴び続けても触れないほど熱くもなりません。
*リブ付き樹脂木材を使用したデッキの例
*ハイブリッド樹脂木材を使用したデッキの例
つるっとした表面の樹脂材は質感を違和感なく見せるための方法としてリブを付けたり、浮造りふうに型押ししたりすることで、光が乱反射し自然の木材の見え方に近づきました。こうして人工木材が覇権を握ったかに見えましたが、ここでイノベーションのジレンマ的な出来事が起こりました。
腐らない自然の木が世の中に出はじめたのです。実際には腐らないわけではなく、その時間が飛躍的に伸びたということだと思いますが、今までとは違った方法で木材そのものの耐久性を向上する技術革新で、それまでの常識を覆すような性能を持った木材が現われ始めたのです。デッキ材の話は今回で終わりにしようと思ったのですが、次号に持ち越すことにします。