【ヘイルメリー2020年4月号掲載】
ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第20回」
ウッドデッキの話 その4
ウッドデッキの話も今回で4回目になりましたが、ようやく最近どんな計画をしているのかという話に追いつきました。
一つ目の写真は、豪徳寺にある、「はなまねき」という名前を付けた住宅です。この建物は生活の中にいかに緑や花を取り込むか、街路と住空間を緑で緩やかに仕切れないかというようなテーマとして計画した住宅です。
ここでのウッドデッキの役割は、この住宅のメインテーマではないのですが、室内と半屋外いわゆる中間領域といわれる空間をいかに一体感させることができるか、ということでした。
簡単に書いていますが、雨風にさらされる環境で腐らない、変色しない木材などという代物は世の中に存在しないと思っていたので、これまでどおり樹脂のデッキ材を使うしかないなと思っていました。そうすると、どうしても室内とテラスの床の仕上げは違うものになり、完全に一体化することはできなくなります。そんなことを考えていた頃、accoyaというオランダの技術で木材を腐らないようにすることが可能だという話を耳にしました。初めてこの存在を知らされた時は一体そんなものが世の中にあることが信じられない、今までいろいろ試していたのは一体何だったのかと、にわかに信じることができませんでした。
このaccoyaは、ニュージーランド原産のラジアータパインという松材を使用し、酢酸を用いる化学反応「アセチル化」により、耐腐朽性能を飛躍的に向上させた高機能木材です。木材を酢漬けにしたようなもので、酸っぱい匂いがします。accoyaと検索すると、池上産業のホームページにたどり着くと思いますので、興味のある方は探してみてください。
特徴的なことは、表面に保護膜を作って木を保護しているのではなく、内部までアセチル化していることです。表面だけでなく材料全体の耐久性が向上しており、これがこの技術のすごいところだと思います。
いずれにしても画期的な材料で、この技術のおかげで屋外のテラスと室内の床仕上げを全く同じ質感で仕上げることが初めて可能になりました。思ったような色にするのが難しかったのですが、最近はもうすこしいろいろな樹種に対応しており、この計画をしていた頃よりもはるかに豊富なバリエーションが展開されているようです。豪徳寺の「はなまねき」はもうじき築3年くらいになりますが、ほぼ竣工当時の姿をしています。見学もできるので、疑われる方はひらがなで「はなまねき」と検索して出かけてみてください。
二枚目の写真は室内のチーク材の色に合わせてaccoyaを着色したデッキです。この計画も室内と屋外テラスが完全に一体化してとても気持ちの良い場が生み出されています。唯一欠点はコストが高いということでしょうか。
accoyaは究極のデッキ材、ということで話が終わりかと思っていたのですが、さらに続きがあります。
ガラス樹脂含浸技術というものを考えた方がいて、これは純粋に日本の技術で、もともとはコンクリートの擁壁などの保護目的で研究開発された技術のようです。これを木材に応用した液体ガラスをNIKKOという企業が開発しました。ガラスといっても、白く濁ったガラスの水溶液みたいなものに木材を漬けるような形で、製造工程を見せてもらったのですが、ガラスという言葉からイメージしていたものとはとはかなり違うものでした。
これもaccoyaと同じように表面を保護するようなことではなく、芯の方まで入り込んでいく様です。伐採した木材をすぐに製材してガラス樹脂含浸加工をすると木材が割れたり反ったりしなくなるらしく、そうすると苦労して木材を乾燥させるという手間がなくなるメリットもあります。簡単に書いていますが、これはかなりすごいことなのだと思っています。この話もにわかには信じがたいのですが、もし事実だとすると木材の歩留まりは飛躍的に向上し、せっかく炭化した炭素を再度空気中に放出することもなくなり、環境的にも画期的な技術になるかもしれません。このあたりの専門的な話は「NIKKOガラス含浸」と検索するとNIKKOさんのホームぺージが見つかると思いますので、そちらを見てください。ガラス含浸木材はaccoyaよりは少し安価であるという点もありがたいです。
ここでは、この技術を使った実例を二つ紹介します。一つはウッドデッキとして計画したもので色は室内のブラックチェリーのフローリングに合わせています。
もう一つは竹垣、竹にも同じ技術が応用できるのです。よくホテルなどに樹脂の竹垣があり、よく見るとフェイクなのが分かって興ざめなのですが、本物の竹垣では維持費がかかって仕方ないというような場合にも非常に有効ではないかと思います。
だいぶ話がてんこ盛りになりましたが、デッキ材といってもこの20年くらいの間にずいぶん進歩したと思います。材料の進歩によって計画の幅はかなり広がった気がしています。