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【HailMary3月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #25

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ハウスデザイナーからの手紙

ヘイルメリーマガジン 2021年3月号掲載

ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第25回」

街と住宅の関係を考える その7

今回は「照明」の続きを書く予定でしたが、敷地が道路より高い位置にある住宅と街の関係を考える上で、これでいいんだなと思えるものができあがったので、予定を変更して街と住宅の関係を考えるというテーマの「その7」として、その話を綴りたいと思います。

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*法面を石と緑によってロックガーデンのように仕立てたアプローチ。道路サイドに壁が立っていないこともあり、住まい全体が開放的に見える。階段の勾配が緩やかなのもチェックポイント。

この住宅の敷地は道路から3m近く上にあります。地下室や地下車庫を作り玄関は地下に設けるような計画をするには、好都合な状況です。一つの解決の仕方としてそれもありえるのですが、そうなるとかなりコストがオーバーしてしまうのも見えています。

そこでこの計画では普通であれば上を見上げてため息をついてしまうような3m近い高低差を逆手にとり、街路と住宅の間に、ストレスではなく逆にちょっと上がってみたいという感情が生まれるような魅力のある階段を設け、街路から玄関に至るアプローチを、少し非日常が感じられる公園のような空間とすることで、わくわくウキウキしながら階段を上がっていくと自然に玄関についているようなものを作りたいと考えました。

とはいえそんなものが簡単に作れる訳もないのですが、いくつか実際にやってみたかったことを実現すればうまくいくという自信のようなものもありました。一番重要なのは階段の勾配は極力緩くするということです。

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階段の設計をするときはスタートからゴールまでのレベル差を何段で上がるのかを決めるというところから始めますが、今回道路から玄関ポーチまでのレベル差は約2900mm普通の住宅の一階分より少し高いくらいの高さです。

25段で上がると1段の蹴上が116mm、26段だと111.5mm、27段だと107mmという具合に蹴上、(階段の一段の高さを蹴上といいます)は段数を増やせばそれに従って小さくなります。ただし蹴上寸法だけ小さくしても踏面(階段の水平部分の奥行のことをこういいます)がそのままだったりすると非常に上がりづらい階段になってしまいます。

緩やかだけど上がりにくい階段ってたまにありますよね。これは絶対ではないのですがおおむね2+d=600という公式のようなものがあり、これに従っていればそうそう上りにくいものにはなりません。したがって蹴上げhが116mmだと蹴込dは368mm、107だと386と一段が低くなるとそれに従って踏面は大きくなっていき、段数も増えているので階段の全長はどんどん長くなっていきます。こうして今回の敷地でのちょうどよいアプローチの階段の段数は26段、蹴上は110mm、踏面は380mmという形でアプローチの基本形が出来上がります。勾配の角度は16.3度と非常に緩く歩幅が合わないというようなこともない、上りやすい階段になるはずです。

またいくら緩くてもまっすぐな階段は退屈でうんざりしてしまうので、こういう場合は蛇行させます。視線が左右に動いていくので退屈しません。全長も少しだけ長くなります。蛇行した内側には背の高い樹木を配置していくことで立体感のある楽し気な空間が生まれます。

もう一つ非常に重要な考え方があります。

それは垂直なコンクリートの擁壁は基本作らないという考え方です。

例えば今回道路際に3mの垂直なコンクリートの擁壁を作ると、平らな敷地は広がり地盤の利用価値は高くなるということはもちろんあるのですが、街に対しては閉鎖的で潤いのない、ある意味自分さえよければよい身勝手で醜い表情が街路に露出してしまいます。

そうすると街路は殺伐としたものになってしまうのですが、実際にこのような形で出来上がっている住宅は少なくはなく、自分が住んでいる街がそれでよいのか、もう何とかしてほしいと思ってしまいます。したがってこの計画ではコンクリートの擁壁を作らないと決めているのですが、それによって数百万単位でのコストダウンも実現できています。コンクリートの垂直な壁の代わりに緩い法面を石と緑でロックガーデンのように仕立てていきます。これでストレスのない魅力的なアプローチと潤いのある街路空間ができたと思います。

考えてみればアメリカの郊外の住宅地ではそんなことは当たり前で、そういうコードがあるのかどうかは調べていませんが、街路と建物の間には方位に関係なくフロントヤードと呼んでいるアプローチの空間が挿入され、街路は自然と魅力的なものが出来上がります。塀もありません。それも一戸の宅地がゆったり大きいということがなせる業なのかもしれませんが。

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*写真左側が荒川が設計したヘーベルハウス。お隣の住宅も同じように擁壁を立ち上げるのではなく、芝生の法面による階段を備えていて、イメージの近い住宅が並ぶ街の風景ができあがっている。

実は今回いいお手本が隣にあり、ただお隣は玄関が地上階でなく地下にありますが、道路際に擁壁を立ち上げるのではなく、芝生の法面で処理する形をとっており、考え方は非常に近いものがあり、イメージの近い住宅が二つ並んで立っているというような状況が出来上がりました。色も対照的でお隣は黒、こちらは白ということでそれぞれお互いの家の子どもを白い家の子、黒い家の子と呼んでいるという話をお聞きし、なんかうまくいったかなと勝手ににやけています。

春になり、新緑の緑に囲まれた階段が出来上がるのが楽しみです。

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