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【HailMary7月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #27

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ハウスデザイナーからの手紙

ヘイルメリーマガジン 2021年7月号掲載

ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第27回」

照明のこと その3

間接照明は薄暮の天空光のメタファーだ。という言葉は以前紹介した面出 薫さんの間接照明読本の中に書かれてあります。空間を快適なものにする上で、この言葉は非常に重要な意味を持っていると思います。

この本のプロローグに、建築設計に携わる多くの人を虜にしてやまないルイスカーンの太陽光を間接照明のように扱ったキンベル美術館が紹介されています。残念ながら私はまだ見たことがないのですが、死ぬ前に見ておきたい建物の一つです。カーンがこの美術館について語った言葉を編集した「LIGHT IS THE THEME」というタイトルの本が没後に出版されているようです。建築とか住宅にとって光というのはそれほど大きなテーマなのです。

ポールへニングセンの照明器具もこの本の中で間接光をデザインした照明器具として紹介されています。100年近くも前にデザインされた照明器具が、未だに色褪せることなく使われており、ルイスポールセンというデンマークの照明器具メーカーが現代の照明器具として作り続けているのです。驚くべき話だと思います。

六本木のルイスポールセンのショールームに行くと、この卓越したデザインの器具のセミナーが企画されています。私のお客様もこのセミナーに参加され、ルイスポールセンの照明器具の魅力にとりつかれ、いつしかデザインのメインテーマはルイスポールセンの器具をいかに美しくみせるかというように変化していった気もします。しかし住宅のメインテーマは、あくまでいかに居心地の良い快適な空間を作ることが出来るのかということに変わりはないのですが、この話は照明の計画が居心地のよさをいかに大きく左右してしまうかという証拠にほかならないものだと思います。

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ただここで勘違いしてほしくないのは、建築家の吉村順三も言っているように「空間の快適さと物的快適さの中で光が占める役割の重要さというのは、相当なものではないかと思います。ただそこでぼくらが欲しいのは光であって、照明器具ではない」ということです。しかし、繰り返しになりますがもう一世紀近く前にデザインされた器具がいまだに人々を魅了し続けているというのは、ポールへニングセンの器具は形をデザインしているのではなくまさに光そのものをデザインしているからに他ならないと思います。ポールへニングセンのデザインした器具の中でも ARTICHOKEは代表的な器具ですが、私の計画した住宅の中にもその魅力にはまったお客様は何人もいます。

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照明器具のデザインはあくまで器具のデザインを通じて光をどうやってデザインするかということでなければならないのですが、ルイスポールセンのように流行とは関係のない、本質的な気持ちの良さを作り出し続けているメーカーは他にはないように思います。

人に心地よさを感じさせる光は輝度が低い必要があります。太陽を直視して気持ちが良いと思う方はまずいないと思うのですが、抜けるような空の青さの持つ天空の光は多くの人に清々しさを感じさせ、気持ちが良いという感情を抱かせます。夜空に浮かぶ月を見た時に、たいていの人はなんてきれいなんだろうと見惚れることはあっても、眩しくて目をふさぐような人はいないとおもいます。

月の光も、天空の光もどちらも太陽の光が反射した間接光のようなもので、輝度は低いのです。

もうひとつ輝度を下げて光を快適に感じさせる方法として、障子越しの光の様に何かを透過して輝度を下げるという方法があると思います。一般的なシーリングライトはこのパターンなのですが、天井に平たい器具がへばりついているのを見た時に美しいとか気持ちが良いと思うことはほとんどないのですが、同じようなものでもこれが天井からぶら下がり、全方向に輝度が下がった光を発するとどういうわけか気持ちよさを感じてしまいます。

月を見ているようなイメージです。その代表的な器具はジャスパーモリソンがデザインしたFLOS社のGLOBALLという器具なのですが、完全な球体ではなく少し押しつぶした物体が目にちょうど良い明るさの光を全方位に放って空中に浮いている姿はなんともいえぬ美しさを生み出します。

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最近計画した住宅では、天井をヴォールト型に作り、ヴォールトと直行する方向にアーチを多用した空間の中に大小様々な大きさのGLOBALLを合計8個浮かせた空間を作りそこをリビングとして計画しました。このようにペンダントだけで構成するのも気持ちよさを生み出す一つの方法だと思います。

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ダウンライトの光というのは、光源である電球といっても今はほとんどLEDですが、空間の中にかなり輝度の高い光源をさらけ出してしてしまい、グレアという表現をしますが、要するにまぶしすぎるので、必要な明るさを確保するためではなく快適な空間を生み出すための照明の計画には不向きなこともあると思います。平面図の中にダウンライトの位置を落とし込んで、水平面の照度を確保するだけの照明計画からは、そろそろ脱却したいものです。

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*上記エッセイ内に登場する、ルイスポールセンの照明に出会ったお客様のエピソードは、当サイト内の建築ストーリー【家の真ん中にエレベーターがある住宅】にも登場します。併せてご覧ください。

建築ストーリー https://hebel-tdo.com/tdo/story/index.html

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