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【HailMary7月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #33

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ハウスデザイナーからの手紙

ヘイルメリーマガジン 2022年7月号掲載

荒川圭史/ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第33回」

緑のこと その6 <自然のブラインド>

もうかなり以前の話になってしまいましたが、2013年に成城に本格的な邸宅の受注を見据え、それまでとは全く違うモデルの計画をしました。通常のヘーベルハウスの展示場とは平面的にも断面的にもスケールの異なる計画で、吹き抜けでない部分の天井高を3.34m確保しており、床がスキップしながら次の空間につながっていく空間構成の成城モデルを計画したわけです。早いものであれから9年もたってしまいました。以来、展示場の計画に関わっていなかったのですが、今久しぶりに、瀬田展示場の計画を進めています。

ここ一年くらい東京の若手の設計を育てたいという思いから毎月勉強会を開いています。その流れで瀬田に新しく作る展示場の外観デザインの相談に乗ったのですが、そもそも外観だけという相談も変な話で、そのコンセプト、ゾーニングやプランと外観は切り離して考えられるようなものでもないので、気が付くと計画そのものにどっぷりかかわっていました。この展示場の詳しい話はまたどこかでする機会はあると思いますが、今回はその中で考えている西日の扱いと樹木の関係の話をしたいと思います。

瀬田というと、昔東京デザインオフィスがまだ渋谷デザインオフィスと名乗っていた頃初めてかかわった展示場なので、個人的にもかなり思い入れの強い場所です。

昔瀬田に建っていた建物.jpg

*以前瀬田の住宅展示場に建っていたモデルハウス

TDO建築実例 SETA model

瀬田の中でも今回は全く新しい区画での計画なので条件はかなり違うのですが、今回の敷地は会場に足を踏み入れたところからずっと正面に見え続けているような立地で、いわゆる軸線の突き当りに建物が建っているような形です。ニューヨークのパンナムビル、今ではメットライフビルになっているようですが、このビルはその立地のおかげで有名になっていたような気がします。時に街路の突き当りになっているような立地がありますが、こういう場所での計画は正面から見た形の印象は非常に重要で、見た人の印象に残りやすいので、いかに人を呼び込むかがポイントになる展示場の機能上、外構を含めたファサードの計画は特に重要になります。

遠くからでも正面に見える立地の奥に植えた樹木 (1).jpg

*遠くからでも正面に見える瀬田展示場建築予定地。立地の奥に樹木が並ぶ

街路側からの見え方.jpg

*道路側から見た建設予定地

敷地裏側は西側になりますが、この先はもう展示場の敷地ではなく一般の住宅が建っています。ただしこの建物の敷地と会場全体の敷地の間に干渉帯のような奥行2mくらいの空間があり、ここの使い方も重要になります。

敷地の西側は多摩川までずっと緩やかに下っているので、2階以上では見晴らしはかなり良いと考えられます。同時に障害物がないということは西日がかなり強烈に入ってくることが考えられ、西側の眺望が確保できることのメリットと、夏に西日が強烈に入ってくるというデメリットのどちらを選択するのか、非常に難しい選択です。いろいろなところで書いていますが、住宅をデザインすることの最大の目的はデザインで心地よい空間を生み出すことであり、西日の扱いに関してはずいぶん迷ったのですが、夏には多摩川で開催される花火大会の花火も見えそうだし浴室から夕陽が沈んでいくのが見えるというのも魅力ですし、やはり夏の暑さは何とか対策を考えて西の眺望と西日を取り込む方向で計画することにしました。

外付けのブラインドや可動のルーバーというのが存在して、こういう場合これをつけておけば安心なので、オスモで扱っているヴァレーマという外付けブラインドやコモドというアルミの可動ルーバーは何度か計画をしたことがあります。過去に浜田山の展示場や、昔の新宿展示場でも実際に使っていました。可動ルーバーも実邸で何度か使っています。もうずいぶん前の話になりますが、そのころから西日との付き合い方は大した進歩がないようです。今回も最悪このブラインドを外側に設ける覚悟でいたのですが、前述したようにこの敷地には西側に大きな樹を植えることが出来そうなおあつらえ向きのスペースがあることにあらためて気が付き、展示場の管理会社に確認してもらったら樹は植えてもいいということで、これは儲けもので、西向きに大きな窓を開けてその前に窓まで届く大きな落葉樹を植えるという計画で進めることにしました。

setamodel.jpg

*荒川が描いたスケッチと、樹木によるブラインドのイメージ。瀬田住宅展示場に新しく建てるモデルハウスの西側は、夏は西日を遮り、冬には葉が落ちて暖かい西日をとり込める落葉樹を植える計画。このように木の葉は自然のブラインドの役目を果たしてくれる。

昔、樹木関係でよくお世話になっていた内山緑地さんに8mくらいの比較的葉が多く夏は西日を遮ってくれ、冬には葉が落ちて暖かい西日をとり込める落葉樹をいくつか探してほしいというオーダーを出したところ、すぐに何枚かの写真が送られてきました。

内山緑地の圃場にもなっている君津グリーンセンターで見たシマサルスベリとカツラの木のイメージが自分の中で美化されて刷り込まれていて、10年以上どこかに植えたいと思っていたのですが、相談してみたらこの場所ならいいのではないかということで、最終的に西側には3階まで届くカツラが2本、アメリカハナナシが1本、主に一階の目隠し用の3.5mのコハウチワカエデを1本、シラカシが2本、合計6本の樹を選びました。シマサルスベリは表側に使います。建物が出来てしまうと3階の建物越しに樹を吊り上げないといけなくなり、さすがにその上にさらに8mというのは無理なので、まだ更地の状態のうちに先に樹木だけ植えてしまうことにしました。それでも8mの樹木を植えるとなると25tラフターという相当大きなクレーンが必要で、いつもそうなのですが大きな樹を植えるというのはやはり大変なのです。

25t.png

展示場というのはご近所の方に甚だ迷惑な存在かもしれませんが、これらの樹が植えられることで、多少なりとも街路の印象が良くなればとも思っています。

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