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【HailMary11月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #35

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ハウスデザイナーからの手紙

ヘイルメリーマガジン 2022年11月号掲載

荒川圭史/ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第35回」

緑のこと その8 <はなまねき>

今回は「はなまねき」で試みたことを具体的に紹介するかたちで話を進めていきます。

この住宅で一番やりたかったことは、住空間と街路をいかに無理なく、しかも省スペースでつなげ、東京という密度の高い都市の住宅地の中で再現性のあるインターフェイスを緑の力を借りて作ることでした。しかし、外部のデザイナーさん達と話をしているうちに、もっと深いところまで植物と関わっていくようになりました。「緑と暮らす」ことが単にいろいろなところに観葉植物があるようなことではなく、そもそも緑と花は少しニュアンスが異なるもので、花にはもっと特別な力があるというようなことをテーマに話を進めるようになっていったのです。

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特に今回一緒にデザインしたチームの中に女性が入っていたこともあり、私が一人で考えているとそうはならないようなアウトプットになっています。住空間の中で緑のデザインをしていく場合、一般的には、あくまで根が付いたある程度寿命の長い花やグリーンを中心に考えてしまいます。寿命の短い切り花をどうやって生活の中に取り込んでいくかということまで考えることは、大げさに言えば空間の中に時間という次元も一緒に考えるようなことが必要になるということです。日本には昔から生活の中に季節によって床の間などに花を生けるという文化はあったわけで、切り花はもともと生活の中に浸透していたのだと思い至り、この計画でもトイレとかダイニング等の日常空間の中に鉢ものだけではなく切り花が自然と入り込み、生活を豊かにしてくれるような空間ができないかなと考えるようになりました。というのが全体の考え方です。

一緒に計画をしていた女性のデザイナーが、仕事帰りにビールを1本買って帰る代わりに一輪の花を買って帰るだけで夫婦のコミュニケーションも豊かになるという話をしていたのを思い出します。もちろんビールも重要ですが。そういえば駅の改札を出てすぐのところによくある青山フラワーマーケットのショップに、簡単なブーケのようなものが置いてあるのはそういうことなのですね。

それでは具体的なアイテムを紹介していきたいと思います。まずは一番大物の植物のプランターを置く大きな棚です。これを商品化して安価に使えるようにできるとよいのですが、試作したものは、実際にお客様にご提案するにはコストがかかりすぎてしまいました。ブロック塀とアルミのフェンスはとにかく見ていて心地よくないので論外ですが、かといって行政が推奨している生け垣が良いですよとも言いにくく、今世の中にあるものをそのまま使って街と住空間をうまくつなげてくれるインターフェイスになるようなものは商品としては存在していなということなのです。この緑のウォールで守られたテラスで実際に時間を過ごすとその心地よさを感じてもらうことが出来るのですが。

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こういう空間を快適に作るためにこだわる部分としては床材も大きな要素です。住宅のデザインをしている人は内と外が同じ素材で切れ目なくフラットにつながっている状態を作りたいと一度は考えると思うのですが、現実的には置かれている環境が違いすぎ、たいていはあきらめてしまうと思います。仮に同じ材で作ったところで1年もたたないうちに色が変わってしまう。そういう課題を解決してくれたのがaccoyaという素材でした。ウッドデッキの話は以前詳しく書いているので、気になる方はバックナンバーでも見てもらうとよいですかね。今はaccoya以外の手段もいくつか持っているのですが、如何に室内外を違和感なくつなげるかというコンセプトを実現できるかは割と大きな問題なのです。

リビングで時間を過ごしながら緑の量をなるべくたくさん感じられるように作ったのがオリジナルのペンダントです。葉っぱの間から漏れてくる光を求めて照明器具まで作ってしまいました。器具本体はDAIKO電機さんが、グリーンを配する部分はparkERsさんが担当してくれました。これは商品化の一歩手前まで行き竹中工務店からオファーがあったという話も聞きましたが、やはり問題はコストなのです。

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この計画では天井は通常より30cm高くして実際は2.7mの天井高を持っているのですが、ルーバーを設けて天井とルーバーの間に照明やエアコンを設けるというようなことをしています。道路面はすべて緑のウォールで囲ってしまってもよかったのですが、テラスに直接上がれる動線があってもよいかということで、竹竿で簡単な結界を作っています。これが門扉の代わりです。和風庭園の止め石と呼ばれる石を置いてここから入ってはダメという意思表示だけするようなものと同じようなものです。こういうもので領域を示すというのはいかにも日本的な感じがします。

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テラスやダイニングに置いたテーブルは、parkERsさんのオリジナルですが、センターに穴をあけ試験管を使った一輪挿しが差し込めるようになっています。大きな花瓶ではなく小さな試験管というところがポイントなのだと思います。

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やっていることが多すぎてこの誌面ではとても語りつくせないのですが、最後に屋上の話です。これも女性陣からの提案でまずプランターは屋上もキッチン前のテラスも含め床置きではなく腰高のものを採用し、立ったまま手入れができるようになっています。花だけではなく、例えばキッチン前の部分にはハーブが植えられていました。ヘーベルハウスは屋上を簡単に使うことが出来るというのが大きなメリットなのですが、屋上のレイアウトが真剣に考えられているかというとそうでもなく、散漫なスペースになってしまっていることも多く、この住宅では一番外側に動線を確保し、ここからプランターの植物のメンテナンスができるようになっています。人の居場所はプランターに囲まれた中に設けていて外部からは守られた非常に落ち着く場所がられました。

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まだまだ語りつくせない内容がたくさんあるのですが、続きは機会があればどこかで紹介できればと思います.

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