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【HailMary1月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #36

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ハウスデザイナーからの手紙

荒川がヘイルメリーマガジンに連載しているエッセイをご紹介しています。今回は先日建築実例にアップしたばかりの「横浜のレジデンス」をとりあげています。また、文中に登場する成城modelについてはバーチャルモデルハウスをご覧いただけます。

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ヘイルメリーマガジン 2023年1月号掲載

荒川圭史/ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第36回」

照明のこと その4 サーカディアンリズム

20228月に三年越しで設計、施工していた邸宅が完成しました。HEBEL HAUSが初めて本気で邸宅として計画した成城modelが完成してから早いもので10年が過ぎています。東京デザインオフィスではこの10年の間にヘーベルハウスにとっての邸宅とはどういうものなのかという問いに答えられるものを試行錯誤しながら作り続けてきましたが、この住宅はいろいろな意味でこれまで積み重ねてきたことの集大成になっていると思います。

なんでもまじめに10年も取り組んでいれば何とかなるのかもしれません。

いわゆる大きくて贅沢な住宅は、邸宅とか豪邸とかレジデンスとかいろいろ言い方がありますが、どれもなんとなくしっくりしないのは、日本にはこういうカテゴリーの建物は身近には存在しなかったということなのかもしれません。

豪邸というと、武家屋敷とか豪農、豪商のための家というのはあったのでお屋敷という言葉は違和感なく入り込んできますが、和風の浮世離れした数寄屋造りのVILL的なものであったり、フランクロイドライトが設計した神戸の山邑邸のようなものは-普通の人たちといってといっても誰が普通の人なのか良くわかりませんが-普通の人たちが住む住宅としてはどれも現実味のないものばかりです。

逆に住宅メーカーが展示場で邸宅と銘打って作るような物はもともと豪邸とは相いれないものなので、本物の邸宅ではなく邸宅もどきみたいな印象がついて回ってしまうのではないかという気がしています。

ですから「モダンリビング」に豪邸拝見という見出しが躍っているのを見るたびに、確かに豪邸というにふさわしい物が紹介されているのですが、表紙に踊る大きな「豪邸」という文字を見るとどうしても照れくさい気がしてしまいます。

一方レジデンスというと日本ではなんとなくイコール高級マンションという意味合いが強くなってしまいますし、VILLAというと郊外のものすごい邸宅とか別荘みたいなイメージに結びついてしまい、やはり作ろうとしているものは豪邸という言葉が一番ぴったりくるのだと思いますが、照れくさくて使いにくいのです。結果、言葉自体に力はないのですが、やはり邸宅という言葉を使ってしまうことになります。

ヘーベルハウスでも、昔から「いつかはクラウン」ないみいなニュアンスでレジデンスと銘打った展示場はよく見かけた気がしますが、実体は伴っておらず、どこが、としらけてしまうものばかりだった気がします。

そんな状況の中2012年にヘーベルハウスでも本格的に邸宅と呼ぶにふさわしい位置づけの住宅の企画が始まり、私にも誘いがあったので、そのプロジェクトに参加しました。2013年、成城にこれならヘーベルハウスが邸宅と呼ぶに相応しい邸宅と私自身そう思うことが出来るものが出来上がりました。この年にグッドデザイン賞も受賞しています。

そこから東京デザインオフィスは邸宅と呼ぶにふさわしい住宅を、展示場ではなく実際の街に建っているものとして作っていきたいという思いを積み重ね、ヘーベルハウスとしての邸宅のSTYLEのようなものが少しずつ形になっていき、実例も徐々に増えていきました。成城Modelの試作から10年を経て出来上がった横浜の街に実際に建っている住宅はヘーベルハウスの邸宅としてのSTYLEのようなものがようやく完成した気がしています。

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#136 横浜のレジデンス

ずいぶんと前振りが長くなりましたが、こうして出来上がった住宅は空間も大きく、それとともに空間に光を与える照明の計画もそれに相応しいものが求められるようになっていきます。

なんでもそうですが、住宅でもある程度大きく複雑になってくると、すべてのデザインを一人でやりこなすのではなく、ある部分はスペシャリストに任せたほうが良い結果に結びつくことの方が多いと思います。より専門的な解釈で物を見ていくことが必要になっていきます。ですから照明の計画においてもいつも間接照明とグレアレスのダウンライトの組み合わせでは、どこかで見たことのある空間しかできないということになってしまいます。

それでも私が住宅の設計を始めたころのように部屋の真ん中にシーリングライトがへばりつき、四隅にあまり使われることのないダウンライトがついているという計画をしていたころから比べれば、格段に気持ちの良い光に満ちた空間になってはいるのですが、それで押し通せる規模は越えているという感覚は持っていました。私やヘーベルハウスのコーディネーターのもっている照明計画のセオリーや商品知識ではもう太刀打ちできないと感じたため、お客様にお願いして照明の計画は専門のデザイナーに計画してもらうことに同意してもらいました。そこで以前から親交のある照明デザイナーさんに建物全体の照明のコンセプトの立案から具体的な器具の選定やコントローラーの設定まですべてお願いすることにしました。結果的にそのデザイナーの学んできた知識や経験が生き生きと反映された気持ちの良い空間が出来上がり、お客様にも満足していただくことが出来ました。

では具体的にそのデザイナーがした照明計画と、私が普段している計画とは具体的に何が違っていたのかという話をしていきたいと思います。出来上がった空間というか照明計画を日々体験していただくことが、そこに住まわれるお客様にも大変満足いただける結果になったようです。

簡単に言ってしまうとサーカディアンリズム(人が生まれながらにしてもっている「体内時計」のなかでおおよそ24時間周期のもの。概日リズム)の理論に従って、コントローラーを使って時間とともに光の色、量、配灯を自動的に調整するという機能を持たせ、それとは別に毎日のその時のシーンに合わせた設定を選べるようになっています。ですから、とても複雑な照明の配灯を簡単な操作でコントロールできるようにしています。

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*朝のリビングでは、一番高いところに昼光色の光が天井面を弱く照らしている

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*夕方からまた天井面を照らすように光が出始めるが、朝よりも色温度が低い光に変化している

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*夕食も終わり遅い時間になると照度も落とし、光の出る場所も変わり、色温度も大分低い光でと徐々に変わっていく

サーカディアンリズム自体はもう50年以上前に発表された理論で、日本でもてはやされたのももうずいぶん昔の話でいまさらという感じがありました。初めに提案されたときはそんなこと言っても・・・と正直胡散臭い目で見ていたのですが、自分ではどうすることもできないと感じていたので、とりあえず言われた通りにやってみるかくらいの感覚で進めていきました。が、やはり餅は餅屋、専門家の考えを尊重することがいかに大切なことなのかということを改めて実感する結果となったのです。

具体的な話は次号でご紹介したいと思います。

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