へーベルハウス東京デザインオフィスのマツオです。
先月のことになりますが、藤森照信設計の「小泊Fuji」に泊まってきました。この8月末にオープンしたばかり、国内初の泊まれる藤森建築です。藤森さんといえば、自然との調和を意識した独創的な建築の数々・・・一体どんな宿なのか・・・。
小泊Fuji は一日一組限定、定員は最大5名の宿。完全にプライベートな空間で藤森建築をどっぷり堪能できます。
ゲストの新鮮な感動を大事にしたいからと、当面はSNS等で内部の投稿はNG。見学のみは受け付けておらず、この世界観を体験するには宿泊するしかありません。
焼き杉板張りの外壁に銅板折り曲げの屋根。牧歌的な外観です。
藤森建築らしさの代表格、屋根に植えられたフジザクラ。この屋根と連なる小さな丘にそびえる樹齢300年の枝垂れ桜と、遠くに見える富士山をつなぐ存在となっていて、この丘がまた気持ちいい。春はさぞかし見事なことでしょう。
室内は有機的な曲線で構成され、家具も藤森デザイン。建物同様に素朴だけれどユニークで、思わず微笑んでしまうフォルムです。
全てがおおらかな雰囲気で、建物の内部に身を置いているのに自分自身も里山の気配にじわっと馴染んで、自然の一部になっていくような身体感覚を覚えます。もちろん建築によって空間をコントロールしているわけですが、「大きな窓から雄大な風景が見えるから」という単純な話でもないのです。
室内そのものが里山であるというか。うーん、画像で伝えられないのがもどかしい。そもそも語彙力がないのがもどかしい。
一泊朝食付きのB&Bスタイル。こぶりなキッチンがあるので自炊もできます。夕食はオプション購入した旬の地野菜たっぷりの鍋を囲み、朝食は自分達で焼いたパンケーキをいただきました。テーブルウェアは作家もののうつわとKINTOのミックス。キッチンツールに「ロール型のさらし」があるのも印象的で、用意された備品のひとつひとつから、オーナーの山越さんがこの宿に求めたくつろぎの形が伝わってきます。
竣工当時の高過庵に衝撃を受け藤森建築に惚れ込み、藤森さんに宿の建築を依頼したくてしたくて長野に移住。資金もツテもないなか、実に追っかけ歴13年にして夢が叶った山越さん。その情熱を秘めた穏やかなお人柄にも感銘を受けました。(開業の経緯は「藤森旅館へつづく道」を検索してみてください。一気読みしてしまう面白さです。)
今後は建物が周囲の環境に溶け込むように、農転した敷地内に田んぼを復活させ、植樹を行って、ゆっくりと完成形を目指していくそうです。それもまた楽しみ。
細長いフォルム、丸く張り出したデッキは船の舳先、その先に広がる田んぼを海に見立てたという小泊Fuji。ふと思い出しては戻ってきたくなる、小さな港でした。