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【HailMary9月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #40

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ハウスデザイナーからの手紙

ヘイルメリーマガジン 2023年9月号掲載

荒川圭史/ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第40回」

間仕切る

住宅をデザインするということは空間を仕切っていくことである。

内と外の仕切り、あるいは室内でこちら側と向こう側を仕切るのも住宅のデザインのうちかと思います。今回は構造とか断熱性という機能的なことはとりあえず置いておきます。

プランの上では仕切りは線ですが、実際の空間では床から天井までの面になります。こちらから向こうの気配は感じられない別の空間になります。仕切りにドアを設けると向こう側とこちら側は行き来ができるようになり、次の間があるということが感じられるようになります。実際には音とか光の反射で重さが視覚的にみえてしまうこともあるのですが、仕切りが不透明である限り、その仕切りが木であっても土であってもコンクリートであっても基本的には向こうとこちらは完全に別の空間として認識されます。

日本では間仕切りと建具の境界があいまいで、木や紙で仕切ることが多いので、伝統的な在来工法の木造建築の場合、間仕切りというのがあまり意識されることはありません。ましてや鴨居の上に欄間がついていることもあり、襖を閉めていても向こう側の気配が伝わり、さらにその奥へ光を届けるために襖ではなく紙障子を使っている場合もあります。西洋の建築のように間仕切り壁で厳格に空間を仕切っていないので、あえて空間をつなげることを考えなくとも、もともと空間の透明性みたいなものは存在していたのだと思います。

しかし、今の建物は木造であっても真壁の在来木造ではなくツーバイフォーであったり在来構造であっても通常大壁造で、和室はほぼなくなり、それぞれの空間は壁で完全に仕切られ、建具だけでつながった閉鎖的で退屈な空間になりがちです。ただ、ある時期から建築家が作った特殊なプランが好まれたり、それほど大きくない面積の中でLDKをとにかく大きくしたいという要望を満たしていくために、いつの間にか廊下は目の敵にされ、廊下をなくすことが正義みたいな風潮が生まれ、今度は逆に品格が感じられない仕切りのない1ルームのような家が増えてしまいました。一人か二人で住む小さな家ならばそれもよいのかもしれませんが、ある程度の大きさになっても同じような考え方で計画している家が多いことに危うささえ感じることもあります。

そんな状況の中、どうやって空間を仕切っていくかということをもう少し深いところで考えていくことが必要になってきていると思います。空間を仕切ったりつなげたりという作業を行うとき、20世紀後半に活躍した建築史家であるコーリン・ロウの表した透明性という考え方は参考になると思っています。大雑把に言うと、透明性という考え方には虚の透明性と実の透明性があり、その一つ、実の透明性というのは理解しやすく、透明な素材、要するにほぼガラスということになりますが、ガラスで空間を仕切ってくことで、その仕切られた二つの空間はほぼ同時に認知できるようになる、というごくごく当たり前の話です。

私が住宅空間の中で間仕切りにガラスを使うようになったのはまだ最近の話で、2013年に完成した成城展示場あたりから広範囲にガラスの間仕切りを計画するようになりました。

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壁がガラスになることで逆に透明でない床の厚みや壁が協調され浮き上がっているように見えてきました。というような効果を感じながらも、一方でガラスの間仕切りが本当に透明なのかというような議論もあり、実際には透明とは言い切れないような状況になることもあります。使い方次第で透明感が強く現れることもあるのですが、逆に幾重にも虚像が重なり透明とは言いにくい状況になることもあるのです。

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上の2点の写真は、成城展示場より後に計画した金町展示場の写真ですが、ガラスが平行な面として計画され、映り込んだ像がまた映り込んでいくというような現象が生まれ、もはやどこが実像でどこが虚像なのかもわからなくなっています。

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一方、この写真は浴室と脱衣所を同じタイルで仕上げ、脱衣所と浴室をガラスで仕切っています。この場合、かなり素直にガラスによる透明感を感じるような状況になっています。それでも植物の葉がガラスの中に溶けだしているような見え方になっており、やはりガラスによって空間を仕切っていくということが単純に透明な壁で仕切っているということとは異なる、ということが良く表れていると思います。

ガラスで仕切るということではない虚の透明性という表現が適切かどうかは分からないのですが、次回は、ガラスによって二つの空間が透けて見えるのではない効果を生み出す例を挙げ、「間仕切る」という意味をさらに考えていきたいと思います

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