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【HailMary11月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #41

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ハウスデザイナーからの手紙

ヘイルメリーマガジン 2023年11月号掲載

荒川圭史/ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第41回」

間仕切る 2 

「住宅をデザインするということは空間を仕切っていくことである。」

前回のコラムではそう言い切っています。住宅をデザインしていく上でこの作業がかなりのウエイトを占めていることは間違いないと思います。
もちろんそれ以外に考えなければいけないことは山のようにあるのですが。


 最近あまり聞かなくなりましたが、以前は「この家は私が設計したの。」と自慢げに話をされているのを聞くことがよくありました。その時の設計という作業はたいていイコール間取りを考えること、イコール平面的に空間を壁(線)で仕切っていくということなのだと思います。もちろん設計の第一段階はゾーニングをしっかり行うことで、ここで間違った選択をするとその先リカバリーはできないと思います。ゾーニングをしっかり考えることはとても重要です。
 今回お話しするのはそうやってゾーニングされた空間をどうやって仕切っていくのかという話です。前回は二つの空間をガラスという透明な壁で仕切ることの意味について話をしましたが、今回はガラスのように透明な材料を使わずに、二つの空間を仕切りながらつなげていくということを考えてみたいと思います。


 一つ目は比較的簡単な話で、壁でもなくガラスでもなく格子状のもので仕切ってみるという話です。京都の町屋はこの方法で上手に室内と街路空間を仕切っています。この写真は道路に向いて開いている窓の外側に格子を立ててみた状態です。

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窓と道路境界の間は僅かに30cm、それまで恥ずかしくて落ち着きのなかった空間がたちまち心地よい空間に変わります。この当時、自分の中で格子がブームになっていて、室内でもよく使っていました。格子のデザインはピッチと見込みの寸法が要になり、心地よい空間を作るには適切なデザインが必要なのですが。


 次は壁で仕切られた二つの空間の見え方の差の話です。壁に穴をあけると向こう側に抜ける入り口が出来るのですがその穴の形態によって見え方、感じ方が大きく違ってくるという話です。これは以前金町に建っていたモデルハウスですが、吹き抜けを絡めた空間に一階から二階まで厚みのある玄武岩を貼り、構造の要のように見える大きな壁を作っています。

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もちろん組積造ではなく重鉄構造なので、ただの意匠なのですが。見た目の印象はこの壁が建物を支えているように見えるよう作ってあります。


 階段を上がっていくとこの玄武岩の壁を潜り抜けていくように穴が開いています。穴の上部には建築の用語では「まぐさ」というのですが水平に梁のようなものがかけてあります。今回話題にしているのはこの穴の上部に壁を残しているか、天井まで穴になってしまっているかの違いについてです。この写真のように上部に「まぐさ」というか、下がり壁があると大きな穴をくぐり抜けて行くように感じますが、この僅か15㎝くらいの下がり壁がないと左右の壁は独立した壁に見えてしまい、穴をくぐって別の空間に移動するという感覚は消えてしまいます。

日常的に、設計の打ち合わせの中で建具を2.0丈にするか天地丈にするかという議論がよく交わされるのですが、2.0m丈だと壁の中を抜けていく感覚が得られ、向こうとこちらは別の空間として感じられます。一方、天地丈にすると、右と左の壁は独立したものになり、建具の向こうとこちらは同じ空間として感じられる。そのような違いがあります。その違いを分かったうえでデザインをしていくことが大切なのです。


 次の写真も同じようなことを考えながらデザインしたもので、天井をヴォールトと呼ぶかまぼこ形に作っているので、合わせて直交する壁も意匠的にアーチを用いています。別に組積造ではないのでヴォールトにもアーチにも構造的な意味はないのですが、穴をくぐって別の空間へ移動する感覚は更に強くなります。ここでは階段室とリビングの吹き抜けの間の壁を大きなアーチ型にくりぬいて、その中にジャスパーモリソンのいちばん小さなGLO-BALLが穴の中を照らしているのがLDK全体から見えるようにしています。当然階段を上り下りする人と、LDKにいる人は目線が合うような空間の仕切り方になっています。

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次の仕切り方は、壁ではないのですが直方体のコアが空間の真ん中に建っているというパターンです。

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こうすると、その四角いコアが向いている四つの空間は仕切られているわけではないのですが、それぞれ別の空間として仕切られたように感じられます。この筒は実はエレベーターで、この中を上下に移動し別の階へ行くようになっているのですが。さらに上部をへこませて天井との境界があいまいになるような操作もすることで、このコアが特別な存在感を持てるよう工夫しています。

  もうひとつは最近計画した瀬田展示場のモデルハウスですが、今までお話ししたような手法をすべて起用している空間です。真ん中のコア、格子、ヴォールト天井、といった要素を組み合わせ、手前のLDK、奥の寝室、その奥の収納さらにその先の洗面、浴室を回って元のLDKに戻ってくるワンルームの空間ですが、いろいろな間仕切る手法を使って機能的に空間を成り立たせています。

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瀬田展示場はオープンしていますので、この空間を体験することができます。

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