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【HailMary3月号掲載分】ハウスデザイナーからの手紙 #43

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ハウスデザイナーからの手紙

ヘイルメリーマガジン 2024年3月号掲載

荒川圭史/ハウスデザイナーからの手紙 「住宅を作るということ 第43回」

良い家の条件 

良い住宅の条件という問いに対しては常に自問自答している気がします。

その時代のパラダイムや価値観、もしくはその時の技術力によっても大きく変わると思います。日本では地震は避けて通れない自然現象で、過去に大きな地震があるたびに、多くの貴重な命が奪われています。中でも阪神淡路大震災と東日本大震災は災害規模も大きく、多くの人達の記憶に残っていると思われます。わずか30年程度の間にこれほど甚大なものが2度も起きており、関東でも同クラスもしくはそれ以上のエネルギーを放出するような地震がいつ起きてもおかしくないといわれ続けている状況を考えると、何にもまして家は人命を守ることができる装置でなければならないということに異を唱える人はいないでしょう。

やはり恐ろしいのは倒壊により押しつぶされてしまうこと、地震により発生してしまう火災、海に囲まれている日本としてはもう一つ地震により誘発される津波というのが三つの大きな脅威です。

大きな地震が起きるたびに耐震性・耐火性というのは住宅の持つ性能として必須のものと痛感しますし、それに伴う法律も整備され続けています。

幸い私が日々デザインしている住宅ヘーベルハウスは耐震性能や耐火性能に関するポテンシャルが高く、東京の街にヘーベルハウスが増えれば増えるほど都市全体の安全性が高くなっていると感じることができるので、設計者としては幸せなことだと思います。

実際私が今住んでいる杉並区阿佐ヶ谷駅周辺は木造賃貸住宅が密集している地域です。

火災の危険度は高く、もうずいぶん前ですが、朝日新聞に掲載された記事には大地震が起きると高円寺・阿佐ヶ谷は火災による被害で阿鼻叫喚と表現されており、そこまで言わなくてもと思ったものです。自分自身はもう20年近く前に建てたヘーベルハウスに住んでおり、地震や火災に対してそれなりの安心を感じることができていたのですが、竣工当時家の周りは木造の家屋も多く残り、正直なところ実際に大地震が起きたときに一体どうなるのかという不安は絶えず感じていました。

ただ20年の歳月を経てそれらの多くは耐火性能が高いと思われるものに建て替えられ、ずいぶん状況は良くなったのではないかと思っています。安全な街を実現していくためには、その構成要素としての個々の住宅の性能が基本で、これらは良い家の条件として必須なものだと思います。

もちろん良い家としての条件の切り口はいくつもあるわけで、耐震、耐火性能というのはその最も基本的な条件の一つですが、もう少し話を日常に戻すと家庭内で起きる事故は考えているよりずっと多く、交通事故で命を落とす人数よりも家庭内で命を落とす人の方が多いという話を聞きます。

たいていの人はにわかに信じられないと思うかもしれませんが、これは事実の様です。かく言う私も年が明けたばかりの元旦に自宅の階段の下部三段分のところで足を踏み外し、背中を強打し現在も酷い打ち身に苦しんでいたりするのですが、階段は事故を起こす可能性がかなり高い場所なのだと理解しておいた方が良いと思います。個別に家のデザインをしているときも、外観がきれいとか、内部が気持ちよいとか、断熱とかエネルギー効率が高いなどということを考えるよりも前に、まず日常の安全性に気を使っておく必要性があると思います。

世の中の住宅には上曲がりや下曲がりの階段というのは非常に多いのですが、実はかなり危険です。真直ぐ上がり下りするだけの直階段なら個人の住宅のように毎日そこで生活している人にとって慣れていれば目をつぶっても上がり下りできるくらいの感覚は持っていると思いますが、下曲がりや上曲がりというような階段は、最下部や上部が30度や45度で二段か三段に分けられています。上がりながら体の向きを変えるのは真直ぐ上がるのに比べ二つのことを同時にしなければならないということで、登り降りをする難易度が急に高くなります。

通る位置によって階段の踏み面の奥行も変わってしまうのですが、人は横着な生き物で下曲がりの階段ではどうしても内側を通ってしまうことが多く、そうすると踏み面の奥行が狭くなってしまい、何かの拍子にちょっと滑ってしまうとダダーンと落ちてしまうことになります。たかが40cm程度の高さから落ちても打ち所が悪ければ怪我もするし下手をすると命を落とすかもしれません。昔住んでいた建売住宅では効率優先で階段は上も下も曲がっていました。嫌な予感はしていたのですが、案の定義理の母が曲がり部分で足を滑らし落ちてしまいました。それも下ではなく上の曲がり部分なので足を踏み外してからの落差が大きいのです。

阿佐ヶ谷の住宅.jpg*ヘーベルハウスの下曲がり階段の例

今の人は知らないと思いますが、それこそ新選組の階段落ち状態です。そんな危険を少しでも回避するという目的で、ヘーベルハウスでは危険な上曲がり階段は禁止されています。日常のことなのでそこに住む人が注意をすればいいだけといってしまえばそれまでなのですが、事故というのはつい注意を疎かにしたときに忍び寄ってきます。装置としての住宅側の方で、少しでも安全な状態を作っておくということは重要なのではないかと思います。それでも実際に面積効率は無視できないことも多く、下曲がりの階段は良いことにされています。

個人的には設計に際して毎日必ず通る階段や廊下、毎日使う洗面所やトイレを充実させた方がLDKを充実するよりも実は幸せなのではないかと思っているくらいです。

そういう意味では階段のいらない平屋の家は贅沢ですね。

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