「あの窓は、きっと、ふつうはやらないですね」
この写真のどこかに、デザイナーが"ふつうでは作らない"と語る窓があります。いったいどの窓でしょう? ヒントは、階段の近くです。
その窓のアイデアは施主の要望を積み重ねる、一般的な設計方法では、決して生まれなかったと、デザイナーの荒川はいいます。
「窓図鑑vol.1、vol.2、vol.3で語った、窓の基本的な機能の話を踏まえると、機能を分割して、"ここは光だけ取り込む"といったことを考えて設計するのが通常の段取りです。でも、実はこの窓では、あまりそういうことは考えていなくて。写真正面が南西、写真右側が北西、写真を撮ったカメラの真後ろが北東になります。どの方向も、そんなに違いがないっていう感じでいたんですよ。だから、この3面に関しては、わりとまんべんなく窓を開けています。本当は、北西側の壁も全部窓にしたい、と感じながら設計していました」
冒頭のクイズの答えは、階段の右側に面した大きな窓。よく見ると、階段の段差部分に窓が掛かっているのが分かります。この窓を採用できた理由を、荒川はこう語っています。
「設計という作業は、膨大な量の情報が積み重なって、形になっていくのですが、それはひとつずつ何かを決めていくことの繰り返しで、成立しています。なるべく後戻りがないように、多くのことを同時に考えていく必要はありますが、決めていくことがらの中でも、優先順位というか空間が成立するための"ヒエラルキー"のようなものがあり、ここの考え方が硬直化していると、間取り優先の面白みのない居心地の悪い空間になってしまいがちです。
例えば、この写真の場合だと"階段"と"窓"と"日常の安全性"というようなことを、同時に考えていく必要があります。ふつうは、ベランダ側から人が落ちないように、階段部分は壁にするか、窓を設けるなら、はめ殺しにするという選択になるのだと思います。
ただし、そうすると、圧迫感を感じてしまったり、ちぐはぐな大きさの窓が連続して、きれいではない、気持ちのよくない空間になってしまいます。この位置には大きな窓が連続しているほうが、明らかに気持ちがよい空間になります。
目的は"気持ちのよい空間を作ること"と考えているので、まずはここに窓を設けることを優先し、そのために起こる問題は別の形で解決していくという順番にすると、こういう空間が生まれまれます。
要するに、窓の位置や大きさは住宅を設計するという行為の中では、かなり上位にとらえていないとダメだということです。外部との関係で、どこにどんな窓を設けるかで、空間の性格は決まってしまうのです。
例えば、TVと窓とソファの位置の決め方なども同じ様な話だと思います。
ソファを置く位置を決めるのは、"どこにいて、どっちを見ているのかを決めること"なのですが、優先順位を間違えてしまうと『テレビ様』のための場所になり、そこにいる人にとってはあまり気持ちのよくない場所になってしまいがちです。
そうならないように、窓の決め方の順序を考え直したほうがいい場合は多いと思います」